【要点解説】アセットマネジメント国際規格ISO 55000シリーズとは?

はじめに

アセットマネジメントとISO 55000シリーズの役割

アセットマネジメントは、組織が保有する多様な資産(アセット)から最大限の価値を引き出すための活動です。資産は、道路や建物などの物理的なものから、情報や人材といった無形のものまで多岐にわたります。これらの資産を効果的かつ効率的に管理し、組織の目標達成に貢献させることを目指します。

ISO 55000シリーズは、アセットマネジメントを体系的に実践するための国際規格群です。この規格は、資産のライフサイクル全体を通じて、コスト、リスク、パフォーマンスの最適なバランスを考慮したマネジメントシステムの構築と運用を支援します。組織が国際的な基準に基づいたアセットマネジメントを確立することで、持続的な価値創造と競争力向上に繋がります。

本記事の対象読者と活用シーン

本記事は、アセットマネジメントに関心のある経営層、実務担当者、自治体関係者、技術者など、幅広い読者を対象としています。ISO 55000シリーズの概要から導入のメリット、具体的な運用方法までを網羅的に解説することで、アセットマネジメントの基礎知識習得、導入検討の参考、現場マネジメントの改善、あるいは研修教材としての活用を想定しています。

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ISO 55000シリーズの概要

シリーズを構成する3規格(55000, 55001, 55002)の位置づけ

ISO 55000シリーズは、アセットマネジメントシステムに関する国際規格であり、主に以下の3つの規格で構成されています。

  • ISO 55000(概要、原則及び用語):アセットマネジメントの基本的な概念、原則、および用語を定義し、シリーズ全体の土台を提供します。
  • ISO 55001(マネジメントシステム—要求事項):効果的かつ効率的なアセットマネジメントシステムを構築・運用するための具体的な要求事項を定めています。
  • ISO 55002(マネジメントシステム—ISO 55001の適用のための指針):ISO 55001の要求事項を組織がどのように解釈し、適用すべきかに関する実践的なガイダンスを提供します。

これらの規格は相互に関連しており、特にISO 55001は、組織がアセットマネジメントシステムを確立し、認証を取得する際の中心となる規格です。

用語・基本原則の解説

ISO 55000シリーズでは、アセットマネジメントを「資産からの価値を実現化する組織の調整された活動」と定義しています。主要な用語とその意味は以下の通りです。

  • アセット:組織にとって潜在的または実際に価値のある項目、物、または実体。有形・無形を問わず、財務的・非財務的な価値を含みます。
  • アセットマネジメント:組織の目標達成のために、資産のライフサイクル全体を通じて、コスト、リスク、機会、パフォーマンスのバランスを最適化する活動です。
  • アセットマネジメントシステム:アセットマネジメントの方針と目標を確立し、達成するための相互に関連する一連の要素(仕組み)です。

アセットマネジメントの基本原則は以下の4つです。

  • 価値:資産は組織とステークホルダーに価値を提供するために存在し、アセットマネジメントは資産そのものよりも、それが提供する価値に焦点を当てます。
  • 整合性:組織の目標を、技術的・財務的な決定、計画、活動に変換し、組織全体の目標達成を可能にします。
  • リーダーシップ:組織内の全ての管理層からのリーダーシップとコミットメントが、アセットマネジメントの成功に不可欠です。
  • 保証:資産が求められる目的を満たすことを保証し、ライフサイクル全体を通じて実現能力を確保します。

ISO 9001やISO 14001など他規格との違い・共通点

ISO 55000シリーズは、他のマネジメントシステム規格(例:ISO 9001:品質マネジメントシステム、ISO 14001:環境マネジメントシステム、ISO 45001:労働安全衛生マネジメントシステム)と共通の「ハイレベル構造(HLS)」を採用しており、相互運用性が高くなっています。これにより、複数のマネジメントシステムを統合して運用することが容易になります。

  • 共通点:
  • PDCAサイクルに基づく継続的改善を重視します。
  • トップマネジメントによるリーダーシップとコミットメントを求めます。
  • 組織の状況、リスクと機会への対処、パフォーマンス評価、改善といった共通の要素を含みます。
  • 文書化された情報の管理を要求します。
  • 違い:
  • ISO 9001は製品やサービスの品質向上と顧客満足度の達成に焦点を当てますが、ISO 55000シリーズは「アセット(資産)」そのものから生み出される価値の最大化に重点を置いています。
  • ISO 55000シリーズは、資産のライフサイクル全体におけるコスト、リスク、パフォーマンスのバランスを最適化する戦略的な活動に特化しています。

アセットマネジメントシステムは、品質、環境、安全衛生などの他のマネジメントシステムの要素の上に構築されることで、導入にかかる労力やコストを削減し、組織全体の統合マネジメントを強化できます。

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アセットマネジメントシステムの特徴とPDCAサイクル

アセットマネジメントシステムの枠組み

アセットマネジメントシステムは、組織が保有する多様な資産から最大限の価値を引き出すための、体系的な枠組みを提供します。このシステムは、方針、計画、業務プロセス、情報システムなど、相互に関連する要素から構成され、資産マネジメント活動を指揮・調整・管理するために活用されます。

ISO 55001の要求事項は、以下の主要な項目に分類されます。

  • 組織の状況
  • リーダーシップ
  • 計画
  • 支援
  • 運用
  • パフォーマンス評価
  • 改善

これらの要素は、組織が資産のライフサイクル全体を通じて価値を創出し、目標を達成するための基盤となります。

PDCAサイクルを活用する運用ポイント

アセットマネジメントシステムは、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを核とした継続的な改善プロセスを通じて運用されます。

  • Plan(計画):組織の目標に基づいてアセットマネジメントの方針を策定し、戦略的アセットマネジメント計画(SAMP)を立案します。SAMPは、組織の目標をアセットマネジメントの目標に変換し、具体的なアセットマネジメント計画へと展開するためのアプローチを定めます。リスクと機会の特定と評価もこの段階で行われます。
  • Do(実行):策定されたアセットマネジメント計画に従って、資産の取得、運用、維持、修繕、廃棄といったライフサイクル活動を実行します。外部委託された活動もシステムの管理下で行うことが求められます。
  • Check(評価):資産、アセットマネジメント、およびアセットマネジメントシステムのパフォーマンスを評価します。これには、目標達成度の確認、内部監査、マネジメントレビューなどが含まれます。うまくいった点、うまくいかなかった点を分析し、その原因を特定します。
  • Act(改善):評価結果に基づき、不適合の是正処置や、継続的な改善の機会を特定し、次の計画に反映させます。資産に関連するインシデントや緊急事態への対応計画の見直しもこの段階で行われます。

このサイクルを繰り返し回すことで、アセットマネジメントシステムは組織の状況や変化する資産ポートフォリオに適応し、常に最適化されていきます。

代表的な用語の整理

アセットマネジメントシステムを理解する上で重要な用語を以下に示します。

  • アセットライフ:資産の企画段階から活用の終わりまでの期間。
  • ライフサイクル:資産のマネジメントに関係する段階群(計画、取得、運用、維持、廃棄など)。
  • アセットポートフォリオ:アセットマネジメントシステムの適用範囲内にある資産の集合体。
  • 戦略的アセットマネジメント計画(SAMP):組織の目標からアセットマネジメントの目標を策定し、達成するためのアプローチを規定する文書化された情報。
  • アセットマネジメント計画:SAMPに基づき、個々の資産または資産のグループに対して必要な活動、資源、時間を規定する文書化された情報。
  • リスク:目標に対する不確かさの影響。アセットマネジメントでは、資産に関連するリスクと機会を管理することが不可欠です。
  • パフォーマンス:測定可能な結果。資産の機能、品質、コスト、可用性などを含みます。
  • 継続的改善:パフォーマンスを向上させるために繰り返し行われる活動。

これらの用語を理解することで、アセットマネジメントシステムの各要素がどのように連携し、組織の目標達成に貢献するかが明確になります。

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ISO 55000シリーズの適用分野と最新動向

インフラ・公共施設・製造業・不動産などの主な適用先

ISO 55000シリーズは、あらゆる種類と規模の組織、そしてあらゆる種類のアセットに適用可能です。特に、多数の資産を保有し、その維持管理が事業に大きな影響を与える分野で広く活用されています。主な適用分野は以下の通りです。

  • インフラ:道路、橋梁、トンネル、空港、港湾、上下水道施設など、社会基盤を支える資産の維持管理に適用されます。老朽化が進む社会インフラの効率的な管理手法として注目されています。
  • 公共施設:学校、病院、庁舎、公共ホールなど、地方自治体が所有・管理する施設のアセットマネジメントに活用されます。PFI事業や指定管理者制度において、民間事業者が公共資産を管理する際にも重要となります。
  • 製造業:プラント、設備、機械装置など、生産活動に不可欠な物理的資産のパフォーマンス向上とリスク管理に役立ちます。
  • 不動産:投資用不動産や商業施設などのプロパティマネジメント、ファシリティマネジメントにおいて、資産価値の最大化と運用効率の向上を目指します。

物的資産に加えて、情報資産や知的財産、人的資源といった無形資産の管理にも応用できる汎用性を持っています。

国内外の普及状況と新規格・最新トピック

ISO 55000シリーズは2014年1月に初版が発行されて以来、世界中で普及が進んでいます。日本国内でも、2017年8月にJIS Q 55000シリーズとして日本工業規格化され、特に社会インフラ分野での認証取得が進んでいます。

2024年7月3日には、ISO 55000シリーズの新版が発表されました。これは、2014年の初版発行以降の10年間のフィードバックと経験に基づき、より明確で具体的な要求事項が盛り込まれています。特に、意思決定、資産からの価値の実現、アセットマネジメント計画、リスクと機会への対処方法、データと知識の管理、ライフサイクル運用に関する点が強化されています。

また、同時に以下の3つの新規格も発表されました。

  • ISO 55011(アセットマネジメントを可能にする公共政策の策定に関するガイダンス):公共政策を通じてアセットマネジメントの採用を促進するための指針を提供します。
  • ISO 55012(アセットマネジメントにおける人々の関与と能力に関するガイダンス):アセットマネジメントシステムにおける人々の関与を強化し、必要な能力開発のためのガイダンスを提供します。
  • ISO 55013(アセットマネジメントにおけるデータアセットの管理に関するガイダンス):データ資産および資産データマネジメントの包括的なサポートを提供し、組織目標達成を支援します。

これらの新規格は、アセットマネジメントがより多角的な視点から捉えられ、社会全体での適用が促進される国際的な潮流を反映しています。

国際的潮流・公共政策や人材育成ガイダンスへの展開

アセットマネジメントの国際的な潮流は、単なる物理的資産の管理に留まらず、組織の持続可能性、社会的責任、公共政策との連携、そして人材育成といった側面にも拡大しています。

  • 公共政策への展開:新規格ISO 55011が示すように、各国政府や地方自治体が公共政策を通じてアセットマネジメントを推進し、支援する動きが活発化しています。これにより、インフラの老朽化問題や財政制約といった課題に対し、より戦略的かつ持続可能な解決策が模索されています。
  • 人材育成ガイダンス:ISO 55012は、アセットマネジメントの実践において「人」の要素が不可欠であることを強調しています。アセットマネジメントに携わる従業員の能力開発や、組織内の効果的なコミュニケーションと協力体制の構築が重視されています。
  • データ管理の重要性:ISO 55013は、デジタル化が進む現代において、データがアセットマネジメントの意思決定に不可欠な要素であることを明確にしています。データ資産の管理、分析、活用を通じて、より情報に基づいた意思決定を支援します。

これらの展開は、アセットマネジメントが組織運営のあらゆる側面に統合され、より広範な社会的課題の解決に貢献する可能性を示しています。

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ISO 55000シリーズ認証取得のメリット

業務効率化・リスク管理・コスト最適化などの効果

ISO 55000シリーズの認証取得は、組織に多岐にわたるメリットをもたらします。

  • 業務効率化・生産性向上:
  • アセットマネジメントシステムの構築により、業務プロセスが標準化され、無駄な作業が削減されます。
  • 役割と責任が明確になるため、属人的な意思決定やヒューマンエラーが減少し、円滑な業務遂行が可能になります。
  • 資産データの一元管理と活用により、必要な情報へのアクセスが容易になり、意思決定の迅速化に貢献します。
  • リスク管理の強化:
  • 資産に関連するリスクを体系的に特定、評価、管理する枠組みが整備されます。
  • 予期せぬ事故や故障のリスクが低減され、安全衛生、信用、評判の向上に繋がります。
  • 法令や規制遵守を実証し、罰金や罰則といった責任を軽減できます。
  • コスト最適化・財務パフォーマンスの改善:
  • 資産のライフサイクル全体を見据えた計画的な管理により、維持補修費や更新コストの削減が実現します。
  • 予防保全や予知保全への転換により、突発的な修理費用やダウンタイムが減少します。
  • 投資回収率の改善や財務損失の低減を通じて、財務パフォーマンスが向上します。

組織規模や業種による得られるベネフィット

ISO 55000シリーズは、あらゆる規模や業種の組織に適用可能であり、それぞれが特有のベネフィットを享受できます。

  • 大規模組織:複雑な資産ポートフォリオを持つ大規模組織では、部門間の連携強化、意思決定の透明性向上、ガバナンスの強化といったメリットが特に大きくなります。
  • 中小企業:限られたリソースの中で資産を効率的に管理するための体系的なアプローチを提供し、競争力向上に貢献します。
  • 公共機関:社会インフラの老朽化問題に対応し、長期的な視点での計画的な維持管理を可能にすることで、国民への説明責任を果たすと共に、サービスの質を向上させます。
  • 製造業:生産設備の稼働率向上、製品品質の安定、サプライチェーン全体の最適化に繋がります。
  • 不動産業界:物件の資産価値最大化、テナント満足度向上、運用コスト削減といった効果が期待できます。

他規格導入企業とのシナジー

ISO 55000シリーズは、ISO 9001(品質)、ISO 14001(環境)、ISO 45001(労働安全衛生)などの他のマネジメントシステム規格と共通の構造を持つため、既にこれらの規格を導入している企業は、アセットマネジメントシステムをより効率的に構築・運用できます。

  • 統合マネジメントシステム:複数のマネジメントシステムを統合することで、重複する文書作成や監査作業を削減し、管理コストを低減できます。
  • 相乗効果:品質マネジメントの視点から資産の信頼性を高め、環境マネジメントの視点から資産の環境負荷を低減し、労働安全衛生マネジメントの視点から資産に関連する作業環境の安全性を確保するといった相乗効果が期待できます。
  • 企業価値向上:統合されたマネジメントシステムは、企業の持続可能性と社会的責任をより包括的に実証し、ステークホルダーからの信頼を一層高めることに貢献します。

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導入・認証取得プロセス

認証までのステップと実務上の留意点

ISO 55000シリーズの認証取得には、以下のステップを踏むのが一般的です。

  1. 取得目的の明確化と範囲の決定:
  • なぜ認証を取得するのか(例:業務改善、リスク低減、競争力強化、対外的な信頼性向上)を明確にします。
  • アセットマネジメントシステムを適用する資産の種類、範囲、組織の部門を決定します。
  1. 現状把握とギャップ分析:
  • 現在のアセットマネジメントに関する方針、プロセス、記録などを調査し、ISO 55001の要求事項との間にどのようなギャップがあるかを分析します。
  1. アセットマネジメントシステムの構築:
  • 組織の目標と整合したアセットマネジメント方針および目標を策定します。
  • 戦略的アセットマネジメント計画(SAMP)および個別のアセットマネジメント計画を作成します。
  • リスクと機会への対処、資源、力量、コミュニケーション、文書化された情報に関するプロセスを整備します。
  • 運用の計画策定と管理、変更のマネジメント、外部委託に関する手順を確立します。
  • これらの要素を文書化し、マニュアルや手順書として整備します。
  1. システム運用と内部監査:
  • 構築したアセットマネジメントシステムを実際に運用し、運用記録を作成します。
  • 定期的に内部監査を実施し、システムが要求事項に適合しているか、有効に機能しているかを評価します。
  • 内部監査の結果に基づいてマネジメントレビューを行い、改善の機会を特定し、必要な是正処置を講じます。

実務上の留意点:

  • トップマネジメントのコミットメント: 経営層の強いリーダーシップとコミットメントが、システム構築と運用の成功に不可欠です。
  • 関係者の巻き込み: 組織内の多くの部門や従業員がアセットマネジメントに関わるため、全員の理解と積極的な参加を促すことが重要です。
  • 段階的な導入: 全ての資産や部門に一度に導入するのではなく、特定の範囲からスモールスタートし、徐々に適用範囲を拡大することも有効です。
  • コンサルティングの活用: 専門知識を持つコンサルタントの支援を受けることで、効率的かつ確実にシステムを構築し、認証取得までの期間を短縮できる場合があります。

審査・認証の流れ(契約・申請から監査まで)

認証機関による審査を経て、ISO 55001の認証が取得されます。

  1. 認証機関の選定と契約:
  • 自社の業種やニーズに合ったISO認証機関を選定し、審査契約を締結します。
  • 審査費用やスケジュールについて確認します。
  1. 第一段階審査(文書審査):
  • 認証機関の審査員が、構築されたマネジメントシステムの文書(マニュアル、手順書など)がISO 55001の要求事項を満たしているかを確認します。
  • ここで指摘された不適合事項は、第二段階審査までに改善が求められます。
  1. 第二段階審査(現地審査):
  • 審査員が実際に組織を訪問し、構築されたシステムが文書通りに運用されているか、現場での活動が要求事項に適合しているかを確認します。
  • トップマネジメントだけでなく、現場の従業員へのヒアリングも行われます。
  • 不適合が指摘された場合は、是正処置を行い、その結果を報告します。
  1. 認証登録と登録証の発行:
  • 審査の結果、マネジメントシステムがISO 55001の要求事項に適合していると認められれば、認証登録が決定され、登録証が発行されます。
  1. 認証維持審査(サーベイランス審査)と更新審査:
  • 認証取得後も、認証を維持するために年1回(または2回)の維持審査と、3年ごとの更新審査を受ける必要があります。これらの審査を通じて、システムの継続的な有効性と改善が確認されます。

よくある質問と認証取得のポイント

  • 認証取得にかかる期間と費用: 組織の規模、適用範囲、既存のマネジメントシステムの成熟度、コンサルタント利用の有無などによって大きく異なります。一般的には、システム構築から認証取得まで6ヶ月から1年半程度の期間を要します。費用も審査費用、コンサルティング費用などが発生します。
  • ISO 55000シリーズの有効期限: 認証登録の有効期間は3年間です。この期間中、定期的な維持審査を受けることで認証を維持し、3年ごとに更新審査を受ける必要があります。
  • 形骸化しないためのポイント: 認証取得そのものを目的とせず、アセットマネジメントを通じた組織目標の達成と継続的改善に焦点を当てることが重要です。PDCAサイクルを意識的に回し、現場の意見を取り入れながら、実情に合ったシステムを構築・運用しましょう。

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実践事例とケーススタディ

国内外の導入事例

ISO 55000シリーズは、世界中の様々な業界で導入され、その効果を発揮しています。

  • 公共インフラ: 社会インフラの老朽化が課題となっている国や地域では、ISO 55001を活用して道路、橋梁、上下水道などの維持管理計画を策定し、長期的な視点でのコスト最適化とサービスレベルの維持・向上に取り組んでいます。
  • 製造業: 大規模な生産設備を保有する製造業では、ISO 55001に基づくアセットマネジメントシステムを導入し、設備の稼働率向上、予期せぬ故障の削減、メンテナンスコストの最適化を実現しています。これにより、生産性向上と競争力強化に貢献しています。
  • 施設管理: オフィスビル、商業施設、病院などの施設管理において、ISO 55001は建物のライフサイクル全体にわたる効率的な運用と保全を支援します。エネルギー消費量の削減や快適な環境の提供など、多角的な価値創造に繋がっています。

効果を実感した具体的エピソード

多くの組織がISO 55000シリーズの導入を通じて、具体的な効果を実感しています。

  • リスクの可視化と低減: 導入前は潜在的なリスクとして見過ごされがちだった資産の劣化状況や故障確率が、システムを通じて定量的に評価・可視化されることで、事前に対応策を講じることが可能になりました。これにより、重大な事故の発生を未然に防ぎ、事業継続性を高めることができたという事例があります。
  • 予算配分の最適化: 資産のパフォーマンスデータとリスク評価に基づき、より情報に基づいた投資決定ができるようになりました。これにより、短期的なコスト削減だけでなく、長期的な視点での費用対効果を最大化し、限られた予算を最も効果的な領域に配分できるようになったという声も聞かれます。
  • 部門間の連携強化: アセットマネジメントが組織横断的な活動であることを意識づけることで、これまで連携が不足していた技術部門と財務部門が共通の目標に向かって協力するようになりました。情報の共有が促進され、意思決定の質が向上したという報告もあります。

業界別の活用ポイント

  • インフラ・公共施設: 膨大な数の資産を管理するため、デジタルアセット管理システム(DAM)や地理情報システム(GIS)との連携が重要です。資産の状態監視データを活用し、予測保全を導入することで、効率的な維持管理を実現します。公共政策との整合性を図り、長期的な計画を策定することが求められます。
  • 製造業: 生産ラインの稼働率や製品品質に直結するため、設備の信頼性向上とダウンタイム削減が重要です。IoTセンサーなどを用いたリアルタイムでの設備状態監視や、ビッグデータ分析に基づくメンテナンス計画の最適化が活用ポイントとなります。
  • 不動産・ファシリティマネジメント: 建物のライフサイクルコスト削減と資産価値向上が目標となります。テナント満足度や環境性能といった非財務的価値も考慮し、総合的なアセットマネジメント計画を策定します。

これらの事例と活用ポイントは、ISO 55000シリーズが単なる規格遵守に留まらず、組織の具体的な課題解決と持続的成長に貢献する強力なツールであることを示しています。

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まとめ

ISO 55000シリーズの意義と今後の展望

ISO 55000シリーズは、アセットマネジメントの国際的な標準として、組織が保有するあらゆる資産から最大限の価値を引き出すための体系的なアプローチを提供します。この規格は、コスト、リスク、パフォーマンスの最適なバランスを図りながら、資産のライフサイクル全体を通じて価値を創造し、組織の目標達成に貢献することを可能にします。

特に、社会インフラの老朽化、気候変動への対応、デジタル化の進展といった現代社会の課題に対し、ISO 55000シリーズは持続可能な解決策を導くための強力なフレームワークとなります。2024年版の改訂や新たな関連規格の発表は、アセットマネジメントがより広範な視点から捉えられ、公共政策や人材育成、データ管理といった側面での重要性が増していることを示しています。

今後も、アセットマネジメントは単一の部門の活動に留まらず、組織全体の戦略的な意思決定と統合されたマネジメントの核として、その重要性を高めていくでしょう。

アセットマネジメント実践への第一歩

アセットマネジメントの実践は、まず自社の資産とその価値、そしてそれを取り巻くリスクを深く理解することから始まります。ISO 55000シリーズは、そのための明確な指針とツールを提供します。

  • 現状の評価: 現在のアセットマネジメントの慣行を客観的に評価し、改善の機会を特定します。
  • トップマネジメントの関与: 経営層がアセットマネジメントの重要性を認識し、その推進に積極的に関与することが成功の鍵です。
  • 段階的な導入: 全ての資産や部門に一度に完璧なシステムを導入しようとするのではなく、小さく始めて成功体験を積み重ね、徐々に拡大していくことが現実的です。
  • 継続的な学習と改善: PDCAサイクルを常に意識し、運用を通じて得られた教訓を次の改善に繋げていく文化を醸成します。

ISO 55000シリーズは、組織が変化する外部環境に適応し、持続的な競争優位性を確立するための羅針盤となるでしょう。この国際規格を活用し、アセットマネジメントの実践を通じて、組織の未来を盤石なものにしていきましょう。

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この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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