SaaSでは、新規顧客との契約を増やす営業と、契約後の顧客活用を支援するカスタマーサクセスの両方が重要です。営業とカスタマーサクセスは、顧客に向き合うタイミングや目標、見るべき指標が異なります。一方で、どちらも顧客の課題を解決し、継続的な事業成長につなげる役割を担う点では共通しています。
本記事では、SaaSにおけるカスタマーサクセスと営業の違い、業務分担、KPI、部門間連携の進め方を解説します。
SaaSでカスタマーサクセスが重要になる理由
継続利用が売上に影響するサブスクリプション型の仕組み
SaaSは、ソフトウェアを買い切りで販売するのではなく、月額または年額で継続的に利用してもらう仕組みが中心です。そのため、契約を獲得した時点で売上が確定するわけではありません。顧客が利用を続け、契約を更新して初めて収益が積み上がります。
月ごとに継続して得られる収益はMRR、年単位で見た継続収益はARRと呼ばれます。こうした継続収益を伸ばすには、新規契約の獲得だけでなく、既存顧客がサービスを活用し続ける状態をつくる必要があります。
カスタマーサクセスは、顧客が導入目的を達成し、サービスを使い続ける理由を持てるよう支援する役割です。SaaSにおいては、契約後の顧客支援が売上の安定性を左右します。
新規受注だけでは事業成長が続きにくい背景
新規顧客の獲得には、広告費、営業担当者の人件費、商談対応などのコストがかかります。仮に新規受注を増やしても、早期解約が多ければ、獲得コストを回収できないまま顧客を失うことになります。
SaaSでは、解約が多い状態を、穴の空いた容器に水を注ぎ続ける状態に例えることがあります。新規顧客を増やしても、既存顧客が次々と離れていけば、継続収益は十分に積み上がりません。
そのため、営業活動による新規受注と並行して、オンボーディング、活用支援、解約予防を行うことが重要です。新規顧客の獲得効率だけでなく、既存顧客の継続率や収益維持率も確認する必要があります。
顧客の成功が解約防止と売上拡大につながる理由
カスタマーサクセスの目的は、単に問い合わせに対応することではありません。顧客がサービスを通じて、業務効率化、売上向上、コスト削減など、導入前に期待していた成果を得られるように支援することです。
顧客がサービスの価値を実感できれば、契約更新につながりやすくなります。さらに、利用範囲の拡大、利用者数の追加、上位プランへの変更などの提案を受け入れてもらえる可能性も高まります。
既存顧客の収益を維持・拡大できることは、LTVの向上につながります。LTVとは、顧客が取引開始から終了までにもたらす価値を示す考え方です。カスタマーサクセスは、顧客の成功を通じてLTVを高める重要な部門です。
カスタマーサクセスと営業の役割・目的の違い
営業は契約前の課題解決と受注を担う
営業の主な役割は、見込み顧客の課題を把握し、自社サービスによる解決方法を提案して契約につなげることです。見込み顧客の発掘、商談、サービス説明、提案書の作成、価格や契約条件の調整、契約締結などを担います。
営業は、顧客が抱える課題と、自社サービスで提供できる価値を結び付ける役割です。契約前の段階では、導入目的や予算、導入時期、意思決定者、競合サービスの検討状況などを確認します。
ただし、受注を急ぐあまり、顧客に合わない提案をすると、導入後に期待とのずれが生じます。営業には、受注可能性だけでなく、顧客が導入後に成果を出せるかを見極める姿勢も求められます。
カスタマーサクセスは契約後の定着と成果創出を支援する
カスタマーサクセスは、契約後の顧客に対し、サービスの導入、活用、定着、成果創出を支援します。顧客の成功を実現することで、継続利用、契約更新、利用拡大につなげることが役割です。
具体的には、初期設定の支援、利用方法の案内、活用計画の整理、定例会の実施、利用データの確認、解約リスクの把握、追加提案の機会創出などを行います。
営業が契約獲得を起点に成果をつくるのに対し、カスタマーサクセスは、契約後の顧客価値を高めることで成果をつくります。どちらか一方だけでは、SaaS事業の持続的な成長は難しくなります。
顧客との関係性と関わる期間の違い
営業は、主に契約前から契約締結までの期間に深く関わります。商談期間は数週間から数か月、企業向けの大規模な案件ではさらに長期化することもあります。
カスタマーサクセスは、契約後から更新、利用拡大まで長期的に顧客と関わります。月額契約や年額契約が続く限り、顧客の事業状況や利用状況に応じた支援が必要です。
営業とカスタマーサクセスは、顧客への関与期間が異なるため、求められる関係性にも違いがあります。営業では、導入の意思決定を支援する提案力や交渉力が重要です。カスタマーサクセスでは、顧客の事業理解、信頼関係の構築、継続的な課題発見が重要になります。
カスタマーサポートとの役割の違い
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは混同されやすいものの、主な役割は異なります。カスタマーサポートは、顧客から寄せられた問い合わせや不具合の相談に対応し、問題を解決する役割です。
一方、カスタマーサクセスは、顧客から連絡が来る前に、利用状況や課題を把握して働きかけます。顧客が成果を出せているか、利用が停滞していないか、解約の兆候がないかを確認し、必要な支援を行います。
カスタマーサポートが問題発生後の解決を中心に担うのに対し、カスタマーサクセスは問題の予防と顧客成果の創出を担う点が違いです。ただし、顧客の問い合わせ内容は、活用上の課題やプロダクト改善のヒントになるため、両者の情報共有は欠かせません。
業務内容で見る営業とカスタマーサクセスの分担
営業が担う見込み顧客の発掘から契約締結まで
営業は、見込み顧客の発掘から契約締結までを担当します。組織によっては、見込み顧客の獲得をマーケティング部門、商談化をインサイドセールス、提案と受注をフィールドセールスが分担する場合もあります。
営業の主な業務は以下の通りです。
- 見込み顧客へのアプローチ
- 課題や導入背景のヒアリング
- サービスの説明やデモンストレーション
- 導入効果や費用対効果の提案
- 導入範囲、料金、契約条件の調整
- 契約締結に必要な手続きの支援
営業が確認すべきなのは、顧客が何に困っているかだけではありません。誰がサービスを使うのか、どの業務で使うのか、どのような成果を目指すのか、導入後に必要な体制をつくれるのかまで把握することが重要です。
カスタマーサクセスが担う導入支援と利用定着
カスタマーサクセスは、契約後のオンボーディングから利用定着までを支援します。オンボーディングとは、顧客がサービスを使い始め、基本的な活用方法を理解し、自走できる状態になるまでの支援プロセスです。
導入直後は、サービスに対する期待が高い一方で、初期設定や運用設計につまずきやすい時期でもあります。この段階で価値を実感できないと、利用頻度が下がり、早期解約につながる可能性があります。
カスタマーサクセスは、顧客ごとに導入目標を明確にし、初期設定、利用者への案内、主要機能の活用、成果確認までを支援します。オンボーディング完了の基準を、単なる初期設定の終了ではなく、顧客が重要な機能を使い、一定の価値を得られた状態として定義することが重要です。
活用状況の確認と解約の予防
利用状況の確認は、カスタマーサクセスの重要な業務です。ログイン頻度、利用者数、主要機能の利用状況、問い合わせ内容、定例会の参加状況などを確認し、顧客がサービスを活用できているかを把握します。
利用頻度の低下や、主要機能の未利用、担当者変更、定例会の中断などは、解約につながる兆候になる場合があります。こうした兆候を早期に把握し、利用目的の再確認、追加トレーニング、運用見直しなどを行うことで、解約を防ぎやすくなります。
顧客の状態を総合的に数値化したものは、ヘルススコアと呼ばれます。ヘルススコアは会社ごとに設計が異なりますが、過去に解約した顧客に共通する特徴を分析し、早期対応につなげることが重要です。
アップセル・クロスセルの担当を決める考え方
アップセルは、既存顧客に上位プランやより高い価格帯のサービスを提案することです。クロスセルは、現在利用しているサービスに関連する別のサービスや機能を提案することです。
アップセルやクロスセルの担当は、会社の組織体制や商材の複雑さによって異なります。カスタマーサクセスが顧客の利用状況を把握して提案機会を見つけ、営業が商談や契約交渉を担う分担が一般的です。
カスタマーサクセスが契約まで担う場合もありますが、価格交渉や複雑な契約条件の調整が必要な場合は、営業が関与した方が進めやすいことがあります。重要なのは、顧客にとって必要な提案であることを前提に、提案機会の発見者、商談の責任者、契約処理の担当者を明確にすることです。
利用頻度が高い、契約上限に近い、新しい課題が発生しているといった状況は、アップセルやクロスセルの候補になります。ただし、顧客が基本的な成果を得られていない段階で追加提案をすると、不信感につながるおそれがあります。
顧客の声をプロダクト改善へつなぐ役割
カスタマーサクセスは、顧客の利用現場に近い立場にいるため、プロダクト改善に役立つ情報を集めやすい部門です。顧客からの要望、利用時のつまずき、期待とのずれ、業務上の課題を整理し、開発部門やプロダクト担当に共有します。
営業も、失注理由や見込み顧客が求める機能、競合との比較で評価された点などを把握しています。営業とカスタマーサクセスの情報を組み合わせることで、契約前後の両方から顧客ニーズを把握できます。
ただし、個別の要望をそのまま開発するのではなく、要望の背景にある課題、対象となる顧客数、事業への影響、既存の機能で代替できるかを整理することが必要です。
営業とカスタマーサクセスで異なるKPI
営業で重視する商談数・受注数・受注率
営業では、新規受注につながる活動と成果を測る指標が重視されます。代表的なKPIには、商談数、受注数、受注額、受注率、商談化率、営業活動量などがあります。
商談数は営業機会の量を示し、受注率は提案した案件をどの程度契約につなげられたかを示します。受注額は、新規顧客から得られた契約金額を示す指標です。
ただし、受注数や受注額だけを重視すると、顧客に合わない契約を増やすおそれがあります。営業KPIには、受注後のオンボーディング完了率、早期解約率、一定期間後の継続率など、契約の質を確認する指標も組み込むことが望まれます。
カスタマーサクセスで重視する解約率と継続率
カスタマーサクセスでは、既存顧客がどの程度継続しているかを示す指標が重要です。代表的なものが解約率と継続率です。
顧客数ベースの解約率は、一定期間の解約顧客数を期首の顧客数で割って算出します。顧客数だけを見ると、少額顧客の解約と高額顧客の解約が同じ件数として扱われるため、売上への影響を十分に把握できません。
そのため、顧客数ベースの解約率に加えて、収益ベースの解約率も確認します。収益ベースで見ることで、どの程度の売上が失われたかを把握できます。顧客数ベースの解約率が低くても、高額顧客の解約が増えていれば、事業への影響は大きくなります。
LTVとNRRで見る既存顧客からの収益
LTVは、顧客が取引期間を通じて企業にもたらす価値を示す指標です。簡易的には、平均顧客単価、粗利率、継続期間、解約率などをもとに算出します。
LTVを見る際は、売上ベースなのか粗利ベースなのか、実績なのか予測なのかを明確にする必要があります。解約率が一定であることを前提にした簡易計算だけでは、アップセル、値引き、サービス提供コストなどを十分に反映できない場合があります。
NRRは、既存顧客からの収益がどの程度維持・拡大したかを示す指標です。新規顧客による収益は含めず、期首時点の既存顧客のみを対象にします。
NRRは、次の考え方で算出します。
- 期首の既存顧客収益
- アップセルやクロスセルによる増収
- ダウングレードによる減収
- 解約による減収
たとえば、期首MRRが1,000万円、アップセルなどによる増収が120万円、ダウングレードによる減収が40万円、解約による減収が80万円の場合、既存顧客収益は1,000万円となります。この場合、NRRは100%です。
NRRが100%を超えていれば、既存顧客からの収益が拡大している状態です。ただし、アップセルで解約分を補っている場合もあるため、解約とダウングレードだけを確認するGRRもあわせて見ることが重要です。
利用状況を把握するヘルススコアと顧客満足度
解約率やNRRは、すでに起きた結果を示す指標です。解約が発生してから対策を取っても遅いため、カスタマーサクセスでは先行指標も確認する必要があります。
ヘルススコアは、顧客が今後も継続利用する可能性を把握するための指標です。ログイン頻度、主要機能の利用率、利用者数、問い合わせ内容、定例会への参加状況、満足度などを組み合わせて判断します。
顧客満足度を確認する指標には、CSATやNPSがあります。CSATは、特定の問い合わせ対応や機能利用などに対する短期的な満足度を確認する際に役立ちます。NPSは、サービスを他者にすすめる可能性を尋ね、長期的な信頼や愛着を把握する指標です。
いずれも数値だけで判断せず、顧客の意見や担当者の所感と組み合わせて解釈することが重要です。
部門ごとの指標を顧客価値でつなげる方法
営業とカスタマーサクセスが別々のKPIだけを追うと、部門間で目標が衝突しやすくなります。営業は受注を優先し、カスタマーサクセスは導入負荷や解約リスクを懸念する、といった状況が起こり得ます。
この課題を防ぐには、会社全体の共通目標として、顧客価値と継続収益に関する指標を置くことが有効です。たとえば、継続率、NRR、LTV、オンボーディング完了率などを共通の成果指標として設定します。
営業には新規受注だけでなく、受注後の立ち上がり品質も評価に含めます。カスタマーサクセスには解約防止だけでなく、顧客の成果創出や適切な拡大提案を評価に含めます。このように、部門ごとの活動指標を顧客価値につなげる設計が必要です。
SaaSにおける営業とカスタマーサクセスの連携フロー
受注前に営業が確認すべき顧客の課題と成功条件
営業は、契約を目指すだけでなく、契約後に顧客が成果を出せる条件を確認する必要があります。受注前に確認すべき主な情報は以下の通りです。
- 顧客が抱えている業務上・事業上の課題
- 導入を検討する背景と緊急性
- 導入によって実現したい成果
- 成果を確認するための指標や目標
- サービスを利用する部署、利用者、責任者
- 意思決定者と運用担当者
- 導入期限、更新時期、予算
- 他社サービスとの比較状況
- 導入後に想定される障害や懸念点
特に重要なのは、顧客にとっての成功を具体化することです。「業務効率を上げたい」といった抽象的な目的だけでなく、どの業務をどの程度改善したいのか、いつまでに何を実現したいのかを確認します。
契約時に行う引き継ぎで共有すべき情報
営業からカスタマーサクセスへの引き継ぎが不十分だと、顧客は契約前に伝えた内容を再度説明しなければならず、不信感を持つことがあります。引き継ぎは単なる担当変更ではなく、顧客体験を維持する重要なプロセスです。
引き継ぎでは、少なくとも以下を共有します。
- 契約内容、利用プラン、契約期間、料金
- 導入の背景と解決したい課題
- 顧客が期待している成果と成功条件
- 商談で約束した内容や説明した範囲
- 利用部門、責任者、決裁者、実務担当者
- 導入スケジュールと優先順位
- 顧客が懸念している点や注意事項
- 競合比較や失注リスクにつながり得る要因
営業とカスタマーサクセスが同席する引き継ぎ会議を設け、顧客情報を口頭でも共有すると、記録だけでは伝わりにくい背景や温度感を補えます。
導入から定着までの顧客対応の流れ
導入から定着までの流れは、サービスの特性や顧客規模によって異なります。ただし、基本的には次のような段階で進めます。
- 契約内容と導入目的の確認
- 導入計画と役割分担の整理
- 初期設定やデータ移行の支援
- 利用者向けの説明やトレーニング
- 主要機能の利用開始
- 初期成果の確認
- 活用状況の定期確認
- 運用改善と利用定着の支援
すべての顧客に同じ工数をかける必要はありません。顧客単価、利用規模、解約リスク、拡大可能性に応じて、個別支援を厚く行う顧客と、ガイドやオンラインセミナーなどを活用して支援する顧客を分けることが重要です。
更新・拡大提案で営業と連携するタイミング
更新やアップセルの直前になって初めて顧客と話すのでは、十分な準備ができません。契約更新の数か月前から、利用状況、顧客成果、利用者数、組織変更、予算状況などを確認し、継続や拡大の可能性を把握する必要があります。
カスタマーサクセスが顧客の活用状況をもとに提案機会を見つけ、営業に共有します。営業は、契約条件の調整、価格提案、見積もり、正式なクロージングを担当します。
営業とカスタマーサクセスが共同で提案する場合は、カスタマーサクセスが顧客成果と利用価値を説明し、営業が契約内容と導入範囲を整理する形が有効です。
定例会議と顧客データ共有の運用ルール
営業とカスタマーサクセスの連携を継続するには、個人の努力に頼らず、共有の仕組みをつくる必要があります。CRMや顧客管理ツールに、営業情報、契約情報、利用状況、問い合わせ履歴、更新予定、解約リスクなどを集約します。
定例会議では、次のような内容を確認するとよいでしょう。
- 新規受注顧客の引き継ぎ状況
- オンボーディングが遅れている顧客
- 解約リスクが高い顧客
- 更新時期が近い顧客
- アップセルやクロスセルの候補
- 顧客から得られた改善要望
- 失注理由と解約理由の傾向
会議の目的は、情報共有だけではありません。誰が、いつまでに、どの顧客へ、どのような対応をするかを決めることです。
役割分担で起こりやすい課題と解決策
受注優先で顧客に合わない提案をしてしまう問題
営業の評価が受注数や受注額だけに偏ると、顧客の利用定着や成果創出を十分に考慮しない提案が起こる場合があります。導入条件が整っていない顧客や、サービスで解決しにくい課題を持つ顧客を受注すると、導入後の支援負荷が増え、早期解約につながるおそれがあります。
解決策としては、営業とカスタマーサクセスで、受注すべき顧客像を明確にすることが重要です。どのような課題、組織体制、利用目的を持つ顧客が成果を出しやすいかを整理し、営業の提案基準に反映します。
また、受注後のオンボーディング完了率や早期継続率を営業側も確認することで、受注の質を意識しやすくなります。
引き継ぎ不足によって導入支援が滞る問題
営業からカスタマーサクセスへの引き継ぎが不足すると、顧客の課題や期待値が分からないまま導入支援を始めることになります。その結果、顧客に合わない案内をしたり、契約前の約束と異なる対応をしたりするおそれがあります。
この問題を防ぐには、引き継ぎ項目を標準化することが有効です。営業担当者の記憶や個人メモに依存せず、CRMや引き継ぎシートに必要情報を記録するルールを設けます。
受注規模が大きい顧客や導入難易度が高い顧客では、営業、カスタマーサクセス、必要に応じて技術担当者が参加する引き継ぎ会議を実施します。顧客にも担当変更を明確に伝え、導入初期に営業が同席する期間を設ける方法もあります。
アップセル提案の担当が曖昧になる問題
アップセルやクロスセルは、既存顧客に対する提案であるため、営業とカスタマーサクセスのどちらが担当するか曖昧になりやすい領域です。担当が不明確なままでは、提案機会を逃したり、同じ顧客へ重複して連絡したりする可能性があります。
役割分担では、提案機会の発見、顧客への価値説明、商談化、価格交渉、契約締結を分けて考えることが重要です。たとえば、カスタマーサクセスが利用状況から機会を発見し、営業が商談と契約を担当する形にすると、役割が整理しやすくなります。
どの条件で営業へ引き渡すかを明確にし、利用者数の増加、上位機能への関心、組織拡大、利用上限への接近など、具体的な基準を設定すると運用しやすくなります。
少人数組織で営業とカスタマーサクセスを兼務する場合の注意点
事業立ち上げ期や少人数の組織では、同じ担当者が営業とカスタマーサクセスを兼務することがあります。この形には、顧客理解が深まりやすい、引き継ぎの手間が少ないといった利点があります。
一方で、新規営業が忙しくなると既存顧客への支援が後回しになりやすい点に注意が必要です。既存顧客の解約が増えると、長期的には事業の成長を損ないます。
兼務する場合でも、営業活動と既存顧客対応の時間を明確に分けることが重要です。導入直後の支援、更新前の確認、解約リスク顧客への対応など、優先度の高い業務を定型化し、抜け漏れを防ぎます。
顧客数が増えてきた段階では、オンボーディング、サポート、更新管理など、一部の業務から段階的に分業することを検討します。
顧客の成功を共通目標にした組織設計
営業とカスタマーサクセスの役割分担で最も重要なのは、両部門が顧客の成功を共通目標として持つことです。営業は契約獲得、カスタマーサクセスは解約防止という個別の役割を担いますが、どちらも顧客がサービスを活用して成果を出すことが前提になります。
組織設計では、部門ごとのKPIに加えて、継続率、NRR、LTV、顧客満足度、オンボーディング完了率などの共通指標を置くことが有効です。各部門が自部門の数字だけを追うのではなく、顧客価値と継続収益を軸に連携できるようになります。
営業とカスタマーサクセスは、契約前後で役割が分かれる関係ではありますが、顧客の成功を起点にすれば、一つの顧客体験を共同でつくるチームです。役割、引き継ぎ、指標、会議体を整え、情報が継続的に循環する仕組みをつくることが、SaaS事業の安定成長につながります。











