チャーンレートの意味とSaaSで重要な理由
チャーンレートは一定期間に解約した割合を示す指標
チャーンレートとは、一定期間に契約を解約した顧客、または失われた継続売上の割合を示す指標です。SaaSでは月額または年額の継続課金が収益の中心となるため、新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客がどれだけ利用を続けているかを把握する必要があります。
一般的には、期間の開始時点で有料契約だった顧客のうち、期間終了時点で契約を継続していない顧客をチャーンとして数えます。解約の定義、対象期間、顧客数と売上のどちらを基準にするかによって数値が変わるため、社内で集計ルールを統一することが重要です。
解約率と継続率の違い
解約率は、顧客または売上がどれだけ失われたかを見る指標です。一方の継続率は、既存顧客または既存売上がどれだけ残ったかを示します。
顧客数を基準にし、新規顧客を含めない場合、継続率はおおむね「100%-解約率」で確認できます。ただし、売上ベースではアップセル、クロスセル、ダウングレードがあるため、単純に100%から差し引くだけでは実態を十分に表せません。解約率は損失の大きさを、継続率は既存顧客基盤の安定性を確認するために使います。
売上と事業成長に与える影響
チャーンレートが高い状態では、新規顧客を獲得しても、失う顧客や売上を補うだけで終わる可能性があります。新規獲得が順調でも、解約が多ければ継続売上は積み上がりません。
たとえば、月次チャーンレートが5%の場合、新規獲得がないと仮定すると、1年後に残る顧客は約54%です。年間の減少率は単純な5%×12か月ではなく、複利で計算して約46%になります。月次の小さな差が、年間では大きな収益差につながります。
チャーンレートとLTVの関係
LTVは、1社の顧客が契約期間を通じて企業にもたらす価値を示す指標です。一般的には、顧客あたりの月間売上、粗利率、チャーンレートなどをもとに算出します。
月次チャーンレートが下がるほど平均契約期間が長くなり、LTVは向上します。たとえば、他の条件が同じで月次チャーンレートが2%から1%に下がると、単純モデルでは平均継続期間は約50か月から約100か月へ延びます。解約率の改善は、既存売上の維持だけでなく、顧客獲得費用を回収しやすくする点でも重要です。
チャーンレートの種類と使い分け
顧客数で見るカスタマーチャーンレート
カスタマーチャーンレートは、解約した顧客数を期首の顧客数で割って算出する指標です。ロゴチャーン、顧客解約率とも呼ばれます。
すべての顧客を同じ1社として扱うため、どの程度の顧客が離れているかを把握しやすい点が特徴です。小規模顧客の解約が多い場合でも高くなりやすく、オンボーディング、利用定着、顧客との適合度に課題がないかを確認する際に役立ちます。
契約単位で見るアカウントチャーンレート
アカウントチャーンレートは、契約アカウント数を単位として解約を確認する指標です。法人向けSaaSでは、1社が複数の利用者や部門を持つことがあるため、個人ユーザー数ではなく契約企業数や契約アカウント数で管理する場合があります。
顧客企業単位で契約継続の状況を把握したい場合に適しています。カスタマーチャーンレートとほぼ同じ意味で使われることもありますが、社内資料では顧客、契約、利用者のどれを1件として数えるかを明確にしておく必要があります。
売上で見るレベニューチャーンレート
レベニューチャーンレートは、解約や契約縮小によって失われた継続売上の割合を示す指標です。一般的にはMRRを用いて算出します。
顧客数の解約率が低くても、高額契約の顧客が解約すると売上への影響は大きくなります。反対に、多数の小規模顧客が解約しても、売上への影響が限定的なこともあります。経営や収益予測の観点では、顧客数ベースと売上ベースを並行して確認することが重要です。
解約損失だけを見るグロスレベニューチャーンレート
グロスレベニューチャーンレートは、解約とダウングレードによる売上減少だけを対象にした指標です。アップセルやクロスセルによる増収は含めません。
既存顧客から失われた売上を純粋に把握できるため、サービスそのものの定着度や、解約・縮小を防げているかを確認する際に適しています。増収分を含まないため、グロスレベニューチャーンレートがマイナスになることはありません。
増収分も反映するネットレベニューチャーンレート
ネットレベニューチャーンレートは、解約とダウングレードによる減収から、既存顧客のアップセルやクロスセルによる増収を差し引いて算出します。
既存顧客全体で見たときに、売上が減っているのか、拡大しているのかを確認できます。増収分が解約・縮小による損失を上回る場合、ネットレベニューチャーンレートはマイナスになります。この状態は、既存顧客だけで売上が純増していることを意味します。
チャーンレートの基本的な計算方法
カスタマーチャーンレートの計算式
カスタマーチャーンレートは、次の式で計算します。
カスタマーチャーンレート=期間中に解約した顧客数 ÷ 期首の顧客数 × 100
たとえば、月初の有料顧客数が200社で、その月に10社が解約した場合、月次カスタマーチャーンレートは5%です。
期中に獲得した新規顧客は分母に含めません。新規顧客を含めると、新規獲得が多い月ほど解約率が低く見えてしまい、既存顧客の継続状況を正しく比較できなくなるためです。
グロスレベニューチャーンレートの計算式
グロスレベニューチャーンレートは、次の式で計算します。
グロスレベニューチャーンレート=解約MRR+ダウングレードによる減少MRR ÷ 期首MRR × 100
たとえば、期首MRRが1,000万円、解約による減少が80万円、ダウングレードによる減少が20万円の場合、グロスレベニューチャーンレートは10%です。
この指標では、既存顧客の契約拡大による増収を差し引きません。売上流出を防ぐ力を確認するための指標として活用します。
ネットレベニューチャーンレートの計算式
ネットレベニューチャーンレートは、次の式で計算します。
ネットレベニューチャーンレート=解約MRR+ダウングレードによる減少MRR-アップセル・クロスセルによる増加MRR ÷ 期首MRR × 100
たとえば、期首MRRが1,000万円、解約MRRが80万円、ダウングレードMRRが20万円、アップセルとクロスセルによる増収が150万円の場合、ネットレベニューチャーンレートはマイナス5%です。
この場合、既存顧客からの売上は、解約や縮小を差し引いても50万円増えています。ネットレベニューチャーンレートがマイナスであることは、既存顧客の売上基盤が拡大している状態を示します。
顧客数と売上を使った計算例
月初に100社の有料顧客があり、月内に5社が解約した場合、カスタマーチャーンレートは5%です。
ただし、解約した5社がすべて低額プランで、失われたMRRが合計5万円だったとします。月初MRRが500万円なら、解約のみを対象にした売上ベースのチャーンレートは1%です。
このように、顧客数ベースでは5%、売上ベースでは1%という差が生じることがあります。顧客数の解約率が高い場合は小規模顧客の定着に、売上の解約率が高い場合は高額顧客の継続支援に課題がある可能性を確認します。
集計時に迷いやすいケースと算定ルール
月次と年次のチャーンレートの違い
月次チャーンレートは、毎月の変化を早く把握するために使います。年次チャーンレートは、年間契約が中心のサービスや、長期的な収益基盤を確認する場合に適しています。
月次の数値を12倍して年次チャーンレートとする方法は、正確ではありません。月次チャーンレートが一定なら、年間チャーンレートは次の式で算出できます。
年間チャーンレート=1-(1-月次チャーンレート)の12乗
月次と年次では意味合いが異なるため、他社比較や目標管理を行う際は、集計期間をそろえる必要があります。
期首の顧客数と期中の新規顧客の扱い
基本的なチャーンレートでは、期中の新規顧客は分母に含めません。対象となるのは、期間開始時点で契約していた既存顧客です。
たとえば、月初に100社、月中に20社の新規契約があり、月内に5社が解約した場合、基本的なカスタマーチャーンレートは5社÷100社で5%です。120社を分母にすると4.2%となりますが、新規獲得数によって数値が左右されるため、既存顧客の解約状況を測る指標としては適しません。
無料プランへの変更を解約として扱う基準
有料プランから無料プランへの変更は、通常、有料顧客としては解約と扱います。有料MRRがゼロになるため、売上ベースでは解約MRRとして計上することが一般的です。
一方で、無料プランの利用者を将来の再契約候補として管理する場合は、有料解約と無料利用継続を分けて記録するとよいでしょう。有料契約の解約率と、サービス全体の利用継続率を混同しないことが重要です。
ダウングレードによる減収の扱い
下位プランへの変更、利用人数の削減、追加機能の解除などによる減収は、完全解約とは分けてダウングレードとして記録します。
顧客が契約を継続していても、売上は減少しています。グロスレベニューチャーンレートでは減収分に含め、ネットレベニューチャーンレートでも解約MRRと同様に減算します。ダウングレードが増えている場合は、価格と利用価値のバランス、利用規模の縮小、顧客の予算状況などを確認します。
アップセルとクロスセルをネット計算に反映する方法
既存顧客の上位プランへの変更、利用人数の追加、追加機能の契約などによる増収は、アップセル・クロスセルによる増加MRRとして集計します。
ネットレベニューチャーンレートでは、この増収分を解約・ダウングレードによる減収から差し引きます。ただし、期中の新規顧客から発生した売上は含めません。対象はあくまで期首時点で存在していた既存顧客です。
チャーンレートを分析する際のポイント
全体数値だけでなく顧客層ごとに分けて見る
全体のチャーンレートだけでは、問題がどこで起きているかを把握しにくい場合があります。顧客規模、料金プラン、業種、利用目的、契約期間、獲得経路などで分けて確認することが有効です。
たとえば、特定の料金プランだけで解約率が高い場合は、プラン内容や価格設定に課題がある可能性があります。特定の獲得経路で解約が多い場合は、広告や営業活動で伝えている価値と、実際のサービス内容にずれがあるかもしれません。
契約開始からの期間別に解約傾向を確認する
契約開始月ごとに顧客をまとめ、1か月後、3か月後、6か月後の継続率を追う分析をコホート分析と呼びます。導入からどの時期に解約が集中しているかを把握するために有効です。
多くのSaaSでは、契約直後から数か月間に解約が集中しやすい傾向があります。早期解約が多い場合は、顧客が初期設定を完了できていない、価値を実感する前に利用をやめている、といった課題が考えられます。
解約理由と利用状況をあわせて分析する
解約理由のアンケートだけでは、顧客の本当の課題を十分に把握できないことがあります。解約理由に加えて、ログイン頻度、主要機能の利用状況、利用者数、問い合わせ履歴などを確認することが重要です。
たとえば、「価格が高い」という解約理由でも、利用頻度が極端に低い場合は、価格そのものより価値を実感できていないことが原因かもしれません。解約理由と行動データを組み合わせることで、優先すべき改善策を判断しやすくなります。
解約の意思による分類と支払い失敗による分類
顧客が自ら解約を選ぶケースは、自発的チャーンと呼ばれます。価値を感じられない、予算が削減された、競合サービスへ切り替えたといった理由が該当します。
一方、カード有効期限切れ、残高不足、決済エラーなどによって契約が終了するケースは、非自発的チャーンと呼ばれます。参考情報では、非自発的チャーンはSaaS全体のチャーンの20%から40%を占めることがあるとされています。両者は対策が異なるため、必ず分けて集計します。
数値を比較する際にそろえるべき集計条件
チャーンレートを時系列や他社の公開値と比較する際は、以下の条件をそろえる必要があります。
- 月次か年次か
- 顧客数ベースか売上ベースか
- 解約のみか、ダウングレードを含むか
- アップセルやクロスセルを含むネット指標か
- 無料プラン移行を解約として扱うか
- 支払い失敗後の猶予期間を設けているか
集計条件が異なる数値を比較すると、実態とは異なる評価につながります。数値を報告する際は、計算式と対象範囲もあわせて共有します。
チャーンレートが高くなる主な原因
導入直後にサービスの価値を実感できない
顧客が契約後すぐに成果や利便性を実感できないと、継続利用につながりにくくなります。特に初期設定が複雑なサービスでは、利用開始前に離脱することがあります。
顧客が初めて価値を得る行動を明確にし、その達成までの時間を短縮することが重要です。たとえば、初回レポートの作成、データ連携の完了、チームメンバーの招待など、サービスごとに価値を実感する最初の到達点を定めます。
顧客の目的とサービスの機能が合っていない
顧客の課題とサービスの提供価値が合っていない場合、導入後に期待とのずれが明らかになり、早期解約につながります。営業段階で無理に契約を増やしても、長期的にはチャーンレートを悪化させる可能性があります。
解約が多い顧客層にはどのような共通点があるかを確認し、対象顧客の条件や訴求内容を見直します。サービスに適した顧客に導入してもらうことは、解約率を下げるための前提です。
利用方法が分かりにくく定着しない
機能が多い、画面操作が分かりにくい、必要な情報が見つからないといった状態は、利用定着を妨げます。特に、利用者と契約担当者が異なる法人向けサービスでは、現場の利用者が使いこなせないことが解約につながる場合があります。
利用者の行動を確認し、途中で離脱している操作や、利用されていない重要機能を特定します。ヘルプページ、ガイド、チュートリアル、説明会などを整備し、顧客が必要なタイミングで支援を受けられる状態をつくります。
料金や契約内容に納得感がない
サービスの価値に対して料金が高いと感じられる場合や、料金体系が複雑で利用量と費用の関係が分かりにくい場合、解約やダウングレードが起こりやすくなります。
価格に関する不満が多い場合は、単純な値下げではなく、顧客がどの価値を得られていないかを確認する必要があります。利用規模に合ったプラン、一定期間の利用停止、機能を絞ったプランなどを用意することで、完全解約を防げる場合もあります。
問い合わせ対応や継続支援が不足している
問題が発生した際に迅速な回答が得られない、問い合わせを繰り返しても解決しない場合、顧客の不満は大きくなります。利用頻度が低下している顧客への支援が遅れることも、解約につながる要因です。
特に高額契約の顧客では、利用状況、問い合わせ履歴、契約更新時期を把握し、必要に応じて先回りした支援を行うことが求められます。
チャーンレートを下げるための改善策
導入支援を見直して早期定着を促す
導入支援では、すべての機能を説明するのではなく、顧客が最初に達成すべき成果に集中します。顧客の利用目的ごとに初期設定や推奨手順を分けると、価値を実感するまでの時間を短縮しやすくなります。
導入後の早い段階で、初期設定の完了率、主要機能の利用率、初回成果の達成率を確認します。早期解約が多い場合は、契約から30日、60日、90日までの顧客行動を分析し、つまずきやすい箇所を改善します。
利用状況から解約リスクの高い顧客を把握する
解約は、申し出の前から利用頻度や機能利用の低下として表れることがあります。ログイン回数の減少、主要機能の未利用、利用者数の減少、問い合わせの急増または急減などを確認します。
複数の兆候を組み合わせ、顧客ごとの状態を示すヘルススコアを設ける方法もあります。複雑な予測モデルを最初から作る必要はありません。まずは、一定期間ログインがない、主要機能を利用していない、支払いに問題があるといった条件から始めるとよいでしょう。
顧客の声を収集してサービス改善につなげる
解約時のアンケート、顧客インタビュー、問い合わせ内容、満足度調査などを通じて、顧客の声を継続的に集めます。解約理由は、機能不足、使いにくさ、価格、サポート、事業環境の変化などに分類します。
重要なのは、回答数だけで判断せず、失われたMRRや顧客層と結び付けて優先順位を決めることです。少数の意見でも、売上への影響が大きい顧客層から繰り返し寄せられている場合は、優先度が高い課題と考えられます。
顧客ごとに必要な活用支援を行う
すべての顧客に同じ支援を行うのではなく、契約規模、利用状況、解約リスクに応じて支援方法を分けます。高額契約や解約リスクの高い顧客には個別の提案を行い、顧客数が多い小規模契約にはガイド、セミナー、自動配信などを活用します。
利用が低下している顧客に対しては、未利用機能を一律に案内するのではなく、その顧客の利用目的や課題に合った活用方法を提案することが重要です。顧客が得たい成果を起点に支援を設計します。
解約理由を定期的に振り返り施策を検証する
チャーンレートの改善は、一度施策を実行して終わりではありません。月次や四半期ごとに、顧客数ベースと売上ベースのチャーン、解約理由、顧客層ごとの傾向を確認します。
施策の効果を判断する際は、全体の解約率だけでなく、施策対象となった顧客層の継続率、利用状況、解約理由の変化を確認します。計測、原因分析、施策実行、効果検証を繰り返すことで、予防できる解約を減らし、安定した継続売上の基盤を築けます。










