事業会社でM&Aに携わる人の年収は、企業規模、役職、案件経験、海外案件への関与などによって大きく異なります。M&A仲介のように成約ごとの高額なインセンティブを得る働き方とは異なり、事業会社では基本給と賞与を中心とした安定的な報酬体系が一般的です。
公開求人の例では、事業会社のM&A推進担当はメンバー層で年収700万~1,000万円、マネージャー層で1,000万~1,600万円程度が目安として示されています。ただし、これはあくまで求人上の想定であり、実際の条件は企業の給与制度や職責によって変わります。
事業会社でM&Aに携わる人の年収相場
経営企画・財務部門におけるM&A担当の給与水準
事業会社のM&A担当は、経営企画、事業開発、財務、投資部門などに所属するケースが多くあります。担当業務は、買収候補の調査、事業性の検討、企業価値の算定、外部専門家との連携、社内の意思決定支援、買収後の統合対応などです。
年収は一般的な経営企画・財務部門の給与テーブルを基礎としつつ、M&A経験や管理職としての責任が加味されます。大型案件や複数案件を主導できる人材は希少性が高く、より高い処遇につながりやすい傾向があります。
年収を構成する基本給・賞与・株式報酬
事業会社の報酬は、基本給と賞与が中心です。賞与は会社業績や個人評価に連動することが多く、案件の成約だけで年収が大きく変動する仲介会社とは異なります。
上場企業や成長企業では、役職や制度によって株式報酬が付与される場合があります。中長期の企業価値向上に報酬を連動させる仕組みであり、買収後の統合や事業成長まで担うM&A担当者の役割と相性がよい制度です。
M&A仲介・FA・FASとの年収差
M&A仲介は成功報酬の比率が高く、成約実績によって年収が大きく上振れする可能性があります。上場M&A仲介企業の平均年間給与には1,500万円超や2,000万円超の例もありますが、会社平均には高い成果を出した人材の報酬も含まれます。
一方、FASやFAでは、基本給に賞与を組み合わせる設計が多く、専門性や役職に応じて給与が上がる傾向があります。事業会社のM&A担当は、仲介のような高額インセンティブは限定的な一方、買収後の統合や事業成長まで長期的に関われる点が特徴です。
年収だけでは比較できない事業会社M&Aの特徴
事業会社のM&Aは、自社の成長戦略を実現するための手段です。アドバイザーとして複数社を支援するのではなく、買収判断から統合、事業価値の向上まで当事者として関与します。
案件の成約件数だけではなく、買収した事業がどのように成長したか、想定した相乗効果を生み出せたかといった長期的な成果が評価対象になり得ます。安定した報酬と、経営に近い立場での経験を重視する人に適した選択肢です。
企業規模別に見るM&A担当者の年収水準
大企業・上場企業の年収相場と報酬の特徴
大企業や上場企業では、給与体系、賞与制度、役職制度が整備されていることが多く、年収は社内等級と役職に沿って決まる傾向があります。M&A専任組織がある企業では、投資判断、法務、財務、事業部門との調整を分担しながら案件を進めます。
大規模案件や海外案件に携わる機会がある一方で、意思決定には複数の会議体や承認手続きが必要になります。個人の成果だけでなく、組織としての案件推進力が重視されます。
中堅企業の年収相場と担当範囲
中堅企業では、M&A専任者が少人数である場合が多く、経営企画や財務の担当者がM&Aを兼務することもあります。年収は大企業より低くなる場合がある一方、担当範囲が広くなりやすく、経営陣との距離が近い点が特徴です。
案件の発掘から買収後の統合まで一連の経験を得やすいため、将来的にM&A責任者や経営企画責任者を目指す場合には有効な環境となります。
中小企業・成長企業の年収相場と裁量
中小企業や成長企業では、M&Aの専門部署がなく、経営者や事業責任者と直接連携して案件を進めることがあります。給与水準は資金力や成長段階によって差が大きく、一律の相場を示すことは困難です。
その一方で、買収戦略の立案、候補企業への接触、外部専門家の選定、統合計画の設計まで幅広い裁量を持てる可能性があります。固定年収だけでなく、賞与、株式報酬、役職登用の可能性も確認することが重要です。
外資系企業と国内企業で異なる報酬体系
外資系企業は職務内容に応じて報酬を決める傾向があり、M&A経験者や海外案件の経験者には高い固定給が提示されることがあります。業績賞与や株式報酬の比率が高い場合もあります。
国内企業では、年次や社内等級を反映した給与制度が残る企業もあります。ただし、海外事業の拡大や事業再編を進める企業では、専門人材の採用にあたり市場水準を意識した処遇を提示する動きもあります。
役職・経験年数別に見る年収の目安
未経験・若手担当者の年収水準
未経験からM&Aに携わる場合、経営企画、財務、経理、事業開発などの担当者として入社または異動し、関連業務から経験を積むことが一般的です。初期段階では、企業分析、資料作成、投資委員会向けの情報整理、外部専門家との調整などを担います。
年収はM&A職種として一律に決まるのではなく、入社する企業の若手層の給与制度に基づきます。未経験であっても、財務分析、法人営業、事業企画などの経験があれば、採用時の評価材料になります。
主任・係長・マネージャー層の年収水準
主任、係長、マネージャー層になると、案件の実務推進だけでなく、対象企業の選定、事業性の評価、社内意思決定者への説明、外部アドバイザーの管理などを担います。
公開求人では、事業会社のM&A推進におけるマネージャー候補として年収900万~1,200万円、課長クラスで1,160万~1,330万円といった例があります。もっとも、担当案件の規模、管理職としての責任、勤務地によって条件は変わります。
部長・責任者クラスの年収水準
部長やM&A責任者クラスは、全社の買収戦略、投資方針、案件ポートフォリオ、統合方針に責任を持つ立場です。経営会議や取締役会への説明、事業部門の責任者との合意形成、チームマネジメントも重要になります。
年収は企業規模や役員待遇の有無によって大きく異なります。単に過去の成約件数だけではなく、買収後の成果、組織づくり、後継人材の育成まで含めて評価されます。
M&A経験者が年収を上げやすいタイミング
年収を上げやすいのは、案件の全体像を理解し、一定の役割を担って案件を完了させた後です。特に、ソーシング、企業価値評価、交渉、契約締結、統合のいずれかで明確な実績を説明できると、市場で評価されやすくなります。
海外案件、上場企業の買収、事業再編、PMIの主導経験がある場合も、転職時の交渉材料になり得ます。実績は守秘義務に配慮しつつ、案件規模、担当範囲、課題、成果を整理しておくことが重要です。
業界別に異なる事業会社M&A担当の年収
商社・金融・不動産における年収の傾向
商社、金融、不動産は、投資判断や事業投資との親和性が高く、M&A経験を生かせる領域です。案件の規模が大きくなりやすく、財務分析、契約交渉、投資後の管理といった能力が求められます。
ただし、給与水準は企業全体の報酬制度に左右されます。M&A担当だけの年収を一般化することは難しいため、応募時には基本給、賞与の算定方法、管理職登用の基準を確認する必要があります。
製造業・IT・通信における年収の傾向
製造業では、技術、販売網、生産能力、海外拠点の獲得を目的としたM&Aが検討されます。対象事業への理解や、買収後の現場統合を進める力が重要です。
IT・通信では、ソフトウエア、顧客基盤、人材、データ、技術力の獲得を目的とする案件が多くなります。事業成長のスピードが速い企業では、M&Aと事業開発を横断できる人材が評価されやすいといえます。
ヘルスケア・消費財・サービス業における年収の傾向
ヘルスケアでは、規制、許認可、専門人材、事業継続性などを踏まえた検討が必要です。消費財やサービス業では、ブランド、店舗網、顧客基盤、人材、地域性が買収判断に影響します。
いずれの業界でも、財務面だけでなく現場の事業構造を理解する力が重要です。業界に深い知見を持つM&A担当者は、対象企業の評価や統合計画の精度を高めやすくなります。
海外M&Aの有無が報酬に与える影響
海外M&Aでは、英語での交渉、海外法務・税務への対応、時差をまたぐ会議、現地経営陣との調整などが発生します。そのため、語学力だけでなく、異なる商習慣や組織文化を理解して案件を進める能力が求められます。
クロスボーダー案件の経験は、専門性の高い実績として評価されやすい一方、必ずしも年収上昇を保証するものではありません。海外案件の頻度、出張や赴任の可能性、報酬への反映方法を個別に確認する必要があります。
事業会社M&Aで年収が決まる要因
M&Aの実務経験と成約実績
最も評価されやすいのは、M&Aの実務をどこまで担ったかです。案件に関与しただけでなく、候補先の選定、投資判断、交渉、契約、統合のどの局面で責任を持ったかが問われます。
事業会社では、成約件数だけでなく、買収後に事業が計画通りに成長したか、統合上の問題をどう解決したかも重要な実績になります。
財務・会計・企業価値評価の知識
M&Aでは、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書を読み、事業の収益性や財務上の課題を把握する必要があります。企業価値を考える際には、将来の収益見通し、類似企業との比較、投資回収の可能性などを検討します。
専門資格は必須ではありませんが、会計、税務、企業価値評価に関する知識は、社内外の専門家と対話し、適切な意思決定を行うための基盤となります。
事業戦略を考える力と社内調整力
事業会社のM&A担当には、「買える会社」を探すだけでなく、「自社が買うべき会社」を見極める力が必要です。自社の成長戦略、顧客、市場、技術、人材との相乗効果を考え、買収の目的を明確にします。
また、M&Aは経営陣、事業部門、財務、法務、人事、情報システムなど多くの関係者を巻き込みます。社内の合意を形成し、論点を整理して前に進める調整力が評価を左右します。
語学力と海外案件の経験
海外案件では、英語での会議、資料の確認、契約交渉、海外アドバイザーとの連携が必要になる場合があります。語学力は資格スコアだけでなく、財務や契約の内容を理解し、自分の考えを伝えられる実務力が重要です。
海外M&Aの経験がある場合は、案件の地域、規模、担当範囲、現地チームとの連携方法を具体的に説明できるようにしておくと有効です。
管理職としてのマネジメント経験
M&A組織の責任者には、案件を進める能力に加え、チームの育成や案件管理の仕組みづくりが求められます。メンバーの役割分担、外部専門家の活用、案件の優先順位付け、リスク管理などが主な業務です。
将来的にM&A責任者や経営企画責任者を目指す場合、個人としての案件経験に加え、組織として成果を出した経験が重要になります。
高額インセンティブのM&A仲介と事業会社の働き方を比較
成果報酬型と安定報酬型の違い
M&A仲介では、成約時の成功報酬が個人の報酬に反映される仕組みが多くあります。成果が出た場合の上振れは大きい一方、案件の成約状況によって年収が変動しやすい点が特徴です。
事業会社では、基本給と賞与を中心とする安定報酬型が一般的です。案件の成約は重要ですが、個人への成功報酬よりも、会社業績、役割、等級、長期的な成果が処遇に反映されやすいといえます。
年収の上振れと下振れの大きさ
仲介では、担当案件の規模や成約件数によって数千万円規模の年収を得る可能性があります。一方で、成果報酬の割合が高い場合は、成約がない期間の収入との差が大きくなることがあります。
事業会社は一般に年収の変動が比較的小さいため、生活設計を立てやすい側面があります。ただし、安定性だけで比較するのではなく、昇進の機会、株式報酬、担当できる案件、将来のキャリアも含めて判断することが重要です。
案件の進め方と業務負荷の違い
仲介やFAでは、複数の顧客案件を並行して進め、案件獲得から成約まで短い周期で成果を求められる場合があります。営業活動、経営者との面談、資料作成、交渉対応が重なり、繁忙期には業務負荷が高まります。
事業会社では、案件数は限られる一方で、社内稟議、投資委員会、統合準備などに時間をかけることがあります。案件の局面によって繁忙度は変わるため、通常時の働き方だけでなく、案件進行時の勤務状況も確認すべきです。
長期的なキャリアで得られる経験の違い
仲介では、案件発掘、経営者との関係構築、マッチング、交渉、成約までの経験を多く積めます。営業力と成約力を磨きたい人に向いています。
事業会社では、事業戦略とM&Aを結び付け、買収後の組織・業務・システムの統合まで経験できます。将来的に経営企画責任者、事業責任者、投資責任者、経営幹部を目指す場合に有効な経験となります。
事業会社M&Aで年収を上げるキャリア戦略
未経験からM&A担当を目指すための準備
未経験者は、まず財務諸表の読み方、企業価値評価の基本、M&Aの進め方を学ぶことが有効です。日商簿記2級程度の会計知識は、財務情報を理解する基礎として役立ちます。
加えて、M&Aのニュースや企業の適時開示、決算資料を読み、どのような目的で買収が行われているかを考える習慣をつけることが重要です。知識だけでなく、自社や担当業界の成長戦略を考える視点が求められます。
経営企画・財務で積むべき実務経験
M&Aを目指す場合、経営企画では中期経営計画、予算管理、市場調査、新規事業、事業性評価などの経験が役立ちます。財務・経理では、資金調達、投資管理、連結決算、管理会計、財務分析などが強みになります。
特に、複数部門を巻き込むプロジェクト、経営会議向けの資料作成、外部専門家との協働経験は、M&A業務への接続がしやすい経験です。
M&A仲介・FA・FASから事業会社へ移る際の注意点
仲介、FA、FASから事業会社へ移る場合は、アドバイザーとしての経験を、買い手側の意思決定や統合にどう生かせるかを説明する必要があります。案件を成立させる力だけでなく、買収後の事業価値を高める視点が求められます。
また、事業会社では案件の進め方や意思決定の速度が異なります。案件の成約件数よりも、事業戦略との整合性、社内の合意形成、統合の成功が重視される点を理解しておくことが重要です。
転職時に年収交渉で確認すべき条件
年収を比較する際は、提示額だけでなく報酬の内訳を確認します。確認したい主な項目は以下の通りです。
- 基本給、賞与、残業代の扱い
- 賞与の評価基準と会社業績の影響
- 管理職採用かどうか、役職と等級
- 株式報酬や退職金制度の有無
- 試用期間中の条件と昇給時期
- M&A専任か、経営企画・事業開発との兼務か
- 担当する案件の規模、件数、国内外の比率
- 買収後の統合や事業運営に関与できる範囲
年収と働き方のバランスを踏まえた企業選び
年収が高い企業が、必ずしも自身にとって最適とは限りません。M&Aの案件数、組織の体制、経営陣の関与度、海外出張の頻度、リモートワークや柔軟な勤務制度の有無なども確認が必要です。
特に事業会社M&Aでは、買収後の統合や事業成長に長く関わるため、担当する業界や事業に関心を持てるかが重要です。短期的な年収だけでなく、3年後、5年後にどのような専門性や経営経験を得られるかという視点で企業を選ぶことが、長期的な年収向上につながります。










