ESG・サステナビリティ領域は、環境対応だけでなく、人権、調達、人的資本、情報開示、投資家対応まで含む経営テーマです。求人によって職務内容と年収には大きな差があるため、「ESG担当」という名称だけで比較しないことが重要です。本記事では、公開求人で見られる年収帯や採用要件を踏まえ、職種、経験、業界、働き方ごとの傾向を整理します。
ESG担当の年収を確認する前に知っておきたい基礎知識
ESG担当・サステナビリティ推進担当の役割
ESGとは、環境、社会、企業統治に関する取り組みを指します。ESG担当やサステナビリティ推進担当は、企業が長期的に成長するために、環境や人権などの課題を経営に組み込む役割を担います。
実務は、統合報告書や有価証券報告書での非財務情報の開示、温室効果ガス排出量の算定、脱炭素計画の策定、ESG評価機関への対応、サプライヤー調査、人権に関する確認など多岐にわたります。近年は、経営企画、IR、調達、人事、法務、工場・事業部門などを横断してプロジェクトを進める力も求められています。
年収に含まれる項目と求人票を見る際の注意点
求人票の年収には、基本給だけでなく、賞与、固定残業代、役職手当などが含まれている場合があります。提示年収が高く見えても、賞与比率、残業代の扱い、管理監督者に該当するかどうかで実際の給与水準は変わります。
また、年収レンジは採用可能性のある上限まで含めているケースがあります。未経験者と経験者、担当者と管理職では同じ求人でも提示条件が異なるため、自分がどの等級で採用される見込みかを確認することが必要です。特に年収1,000万円以上の求人では、実務経験に加え、英語、マネジメント、全社プロジェクトの推進実績などを求める傾向があります。
ESG人材の需要が高まっている背景
企業のサステナビリティ対応は、従来の社会貢献活動だけではなく、事業継続や資金調達に関わる経営課題になっています。金融庁は2023年3月期決算企業から、有価証券報告書にサステナビリティに関する記載欄を設けています。また、日本のサステナビリティ開示基準を整備する動きも進んでいます。
気候変動、人権、生物多様性、人的資本といった論点は、一つの部門だけで対応しきれません。そのため、制度を読み解き、社内データを集め、経営層や事業部へ説明し、実行計画に落とし込める人材が求められています。専門人材が十分に多い分野ではないため、関連する経験を持つ人には転職機会があります。
年収相場は企業規模・業界・勤務地で変わる
ESG担当の年収は、企業規模、上場の有無、海外展開、業界の規制、勤務地によって変わります。上場企業では、非財務情報の開示や投資家対応の重要性が高く、経験者には比較的高い年収が提示されることがあります。
公開求人では、事業会社のESG・サステナビリティ推進担当で年収450万〜700万円程度、非財務情報開示を含む経験者向けのポジションで600万〜1,200万円程度、管理職・責任者候補で950万〜1,400万円程度の例が見られます。一方で、職種名が同じでも、実際には事務局業務が中心なのか、戦略策定や全社改革まで担うのかで待遇は大きく異なります。
ESG関連職種別に見る年収相場と仕事内容
事業会社のESG・サステナビリティ推進担当
事業会社では、自社のサステナビリティ方針の策定、情報開示、評価機関対応、社内啓発、部門横断の施策推進を担います。統合報告書やサステナビリティサイトの制作、ESGに関する社内データの収集、温室効果ガス排出量の管理などが代表的な業務です。
公開求人では、経験が浅い担当者層で450万〜700万円程度、開示や戦略推進の実務経験を持つ人材で600万〜1,200万円程度の例があります。全社戦略の推進責任者、グローバル対応を担う管理職候補では、1,000万〜1,400万円程度が示される場合もあります。
ESGコンサルタント
ESGコンサルタントは、複数の企業に対して、サステナビリティ戦略、脱炭素計画、人権対応、非財務情報開示、ESG評価向上などを支援します。企業の現状を分析し、課題を整理したうえで、方針、目標、実行計画、管理体制を設計する仕事です。
年収はコンサルティング経験、役職、担当する案件の難易度によって差が出ます。公開情報では、若手から中堅のESGコンサルタントで500万〜1,200万円程度、開示支援や戦略立案を担う管理職層を含む求人で500万〜1,900万円程度の幅があります。成果や昇進による年収差が大きいため、固定的な相場として見るのではなく、役職と評価制度を確認することが重要です。
ESGアナリスト・責任投資担当
ESGアナリストや責任投資担当は、企業の環境・社会・統治に関する情報を分析し、投資判断や議決権行使、顧客向けの説明に活用します。金融機関、資産運用会社、信託銀行、格付け・調査関連の組織などで採用されます。
求められるのは、ESGの知識だけではありません。財務情報と非財務情報を結びつけて読む力、データ管理・分析力、企業との対話力、英語による情報収集力が重要です。公開情報では、ESGアナリストの年収目安として750万〜1,400万円程度が紹介されている一方、実際には金融機関での経験、投資実務、分析スキルによって条件が大きく変動します。
非財務情報の開示・保証担当
非財務情報の開示・保証担当は、統合報告書、サステナビリティレポート、有価証券報告書のサステナビリティ情報、温室効果ガス排出量などの作成・確認を行います。開示内容の根拠となるデータの収集、社内統制の整備、外部基準への対応、第三者保証に関する業務も含まれます。
この職種では、IR、経理、監査、内部統制、広報、法務などの経験が生かせます。公開求人では、非財務情報開示担当で600万〜1,200万円程度、開示支援を行うコンサルタントや保証関連の職種で500万〜1,900万円程度の募集例があります。基準対応だけでなく、経営・投資家向けの説明まで担える人材は高く評価されやすい傾向です。
脱炭素・環境管理・サプライチェーン担当
脱炭素・環境管理・サプライチェーン担当は、温室効果ガスの算定、削減目標の設定、再生可能エネルギーの導入検討、環境法令対応、調達先の人権・環境リスク管理などを担います。製造、物流、エネルギー、自動車、建設、不動産などで特に需要があります。
業務では、Scope1・2・3の排出量算定、削減ロードマップの策定、サプライヤーへの調査、環境監査、取引先からの質問票対応などが発生します。専門性が高い一方で、工場、調達、物流、設備、品質保証などの現場経験を持つ人は転用しやすい分野です。公開求人では、経験者向けに600万〜900万円程度、管理職候補や高度な専門職では1,000万円を超える例も見られます。
経験年数・役職別に見るESG担当の年収の伸び方
未経験・第二新卒で転職する場合の年収水準
未経験者や第二新卒の場合、ESG専任の経験よりも、論理的思考力、資料作成力、部門横断での調整力、企画経験などが評価対象になります。年収は前職の給与水準に近い条件で始まることが多く、一般的には400万〜600万円程度が目安になります。
ただし、コンサルティング職や大手企業の総合職では、若手でも500万円台からスタートする求人があります。未経験であっても、経営企画、IR、環境管理、調達、人事、営業企画などの経験を具体的に説明できれば、より高い条件を狙える可能性があります。
実務経験3〜5年の担当者層の年収水準
ESG、開示、環境、調達、人権、投資分析などの実務経験が3〜5年ある場合、年収は500万〜800万円程度が一つの目安です。担当者として自走でき、社内外の関係者と調整しながら成果物を作れることが評価されます。
たとえば、統合報告書の作成、温室効果ガス排出量の集計、ESG評価機関への回答、環境マネジメントの運用、サステナブル調達の導入などを経験している場合です。特定テーマの経験だけでなく、計画から実行、改善までを担った実績があると、より上位のポジションに応募しやすくなります。
リーダー・管理職層の年収水準
リーダーや管理職層では、年収700万〜1,200万円程度が中心となります。部門メンバーの管理だけでなく、複数の事業部や海外拠点を巻き込み、全社的な取り組みを進める役割が求められます。
評価されやすいのは、開示体制の構築、全社の温室効果ガス管理、人権方針の策定、重要課題の特定、経営会議への報告、外部評価の改善などです。単に業務を担当した経験ではなく、関係者を動かし、継続的に運用できる仕組みを作った経験が年収に影響します。
専門性を持つシニア人材・責任者の年収水準
高度な専門性を持つシニア人材や責任者候補では、年収1,000万〜1,400万円程度、コンサルティングファームの上位役職ではさらに高い水準が提示されることがあります。特に、グローバル開示、脱炭素投資、ESGデューデリジェンス、非財務情報保証、サプライチェーン人権対応などで実績を持つ人材は希少です。
責任者クラスには、経営層との対話、予算管理、組織づくり、人材育成、外部ステークホルダーとの交渉も求められます。専門知識だけでなく、会社の事業戦略にESGをどう結びつけるかを説明できることが重要です。
前職の経験を生かして年収を高めやすい職種
ESG領域では、過去の職種経験が年収に直結しやすい傾向があります。特に評価されやすい経験は以下のとおりです。
- IR・広報経験:統合報告書、投資家向け説明、非財務情報開示に生かせます
- 経営企画・事業企画経験:サステナビリティ戦略や重要課題の策定に生かせます
- 環境・品質・安全管理経験:排出量算定、環境法令、工場・事業所の管理に生かせます
- 調達・SCM経験:人権、責任ある調達、サプライヤー評価に生かせます
- 金融・投資分析経験:ESG評価、責任投資、サステナブルファイナンスに生かせます
- コンサルティング経験:課題整理、資料作成、プロジェクト推進、顧客対応に生かせます
年収に差がつく企業・業界・働き方の特徴
上場企業と非上場企業で異なる求人の傾向
上場企業では、投資家、株主、金融機関への説明責任が求められるため、非財務情報の開示、ESG評価機関への対応、統合報告書の作成などの求人が多く見られます。開示制度や国際基準への理解を持つ人材は、比較的高い年収で採用される可能性があります。
非上場企業では、取引先からの環境・人権調査、海外顧客の監査対応、調達方針の整備、工場の環境管理などが中心になる場合があります。上場企業より年収が低いとは限りませんが、開示中心か、現場改善中心かで必要な経験が異なります。
金融・製造・不動産・エネルギー業界の特徴
金融業界では、ESG投資、融資判断、気候リスク分析、投資先との対話、サステナブルファイナンスが主なテーマです。財務分析とESG分析を両立できる人材が求められます。
製造業では、脱炭素、生産工程の改善、化学物質管理、調達先の人権・環境確認などが重要です。工場やサプライチェーンの実務を理解している人は強みになります。不動産業界では、建物の省エネルギー、再生可能エネルギー、環境認証、地域との共生が論点になりやすい傾向です。エネルギー業界では、再生可能エネルギー、水素、電力、脱炭素投資など、事業転換に直結するテーマが多く、専門知識と事業開発経験が評価されます。
国内企業と外資系企業で求められる役割の違い
国内企業では、社内の合意形成や部門横断の調整、国内制度への対応、統合報告書の作成などが中心になるケースがあります。長期的に社内へ浸透させる力が求められます。
外資系企業や海外展開の大きい企業では、本社基準に沿ったデータ提出、英語での会議・報告、海外拠点との調整、国際的な開示基準への対応が求められます。英語力だけではなく、異なる部門や国の関係者と仕事を進める実務力が年収差につながります。
東京圏と地方で異なる年収・求人の傾向
東京圏には、本社機能、金融機関、コンサルティングファーム、監査関連の組織が集まりやすく、開示、戦略、投資、コンサルティングの求人が多い傾向です。年収水準も比較的高く、600万〜1,000万円を超える求人が見つかる場合があります。
地方では、製造拠点、エネルギー関連施設、建設・インフラ、地域企業のサプライチェーン対応などの求人が中心になりやすい傾向です。勤務地によって年収は異なりますが、専門性が高い環境管理や調達、再生可能エネルギーの経験を積める場合があります。年収だけでなく、担当できる範囲や将来の市場価値も比較することが大切です。
リモートワーク・副業可否など待遇面の確認ポイント
ESG担当は、多部門との会議、現場確認、データ収集が多いため、完全在宅で完結しないことがあります。一方で、報告書作成、データ分析、制度調査などはリモートワークと相性が良い業務です。求人票では、出社頻度、フレックスタイム制、海外出張、工場や拠点への出張の有無を確認しましょう。
副業可否、自己学習支援、資格取得補助、語学研修、育児・介護支援もキャリア形成に影響します。特にESG領域は制度や基準の変化が早いため、学習時間を確保できる働き方かどうかが重要です。
ESG担当として年収を上げるために身につけたいスキル
非財務情報の開示基準と統合報告書の知識
非財務情報の開示では、企業の方針や目標を文章で示すだけでなく、根拠となるデータ、管理体制、将来のリスクと機会を整理する必要があります。統合報告書、サステナビリティレポート、有価証券報告書の役割を理解することが基本になります。
開示基準では、ISSB、TCFD、TNFD、GRI、SASBなどが参照されます。すべてを暗記する必要はありませんが、各基準が何を求めているか、自社にどのような影響があるかを説明できると強みになります。
気候変動・脱炭素の計画策定と排出量算定の経験
脱炭素分野では、温室効果ガスの排出量を正確に把握し、削減目標と実行計画を作る経験が重要です。特に、自社だけでなく、購入電力やサプライチェーンを含めたScope1・2・3の考え方を理解している人材は需要があります。
年収を高めるには、集計業務だけでなく、排出量データをもとに削減施策を企画し、再生可能エネルギーの導入や設備更新、取引先との協働へつなげた経験が有効です。環境データを経営判断に使える形へ整理する力が求められます。
人権・調達・サプライチェーンの課題に対応する力
人権や責任ある調達は、グローバル企業だけの課題ではありません。取引先からの調査や顧客監査を通じて、労働環境、差別、強制労働、児童労働、安全衛生などへの対応を求められる企業が増えています。
調達部門、品質保証、監査、法務、海外営業などの経験がある人は、取引先との対話や質問票対応、監査、改善支援の経験を生かせます。方針を作るだけでなく、サプライヤーに実行してもらうための運用設計ができる人材は評価されやすいです。
英語による情報収集・資料作成・関係者との調整力
ESG関連の制度、投資家の要請、評価機関の質問、海外拠点のデータは英語で扱われることが少なくありません。英語力は資格スコアだけではなく、英文資料を読み、必要な情報を整理し、メールや会議で調整できるかが重要です。
公開求人では、英語文書に対応できることや、TOEIC700点程度を目安とする例があります。より上位のポジションでは、海外子会社、海外顧客、海外の認証機関と直接やり取りする場面もあるため、実務での英語使用経験が評価されます。
データ分析・プロジェクト推進・経営企画の経験
ESG業務では、データの収集・確認・分析と、関係者を巻き込むプロジェクト推進の両方が必要です。Excelでの集計、グラフ作成、データ品質の確認、業務フローの設計などは実務で役立ちます。
また、年収を上げるには、データをまとめるだけでなく、経営会議向けの資料や意思決定につながる提案を作れることが重要です。経営企画、事業企画、PMO、業務改善、IT導入などの経験は、ESG推進でも再現性の高い強みになります。
経験別に考えるESG担当への転職戦略
未経験者が目指しやすい職種と準備方法
未経験者は、いきなり責任者や高度な専門職を目指すよりも、サステナビリティ推進の事務局、情報開示の補助、環境データ管理、調達・人権対応、コンサルティングの若手職などを選択肢にすると現実的です。
準備としては、企業の統合報告書やサステナビリティレポートを読み、実務のイメージを持つことが有効です。環境社会検定、サステナビリティに関する検定、ISO14001、開示基準の入門講座などで基礎を学ぶ方法もあります。ただし、資格だけで評価されるわけではないため、前職での企画、データ分析、調整、改善経験をESG業務にどう生かせるか整理することが重要です。
IR・経営企画・総務・環境管理から転職する方法
IR経験者は、統合報告書、投資家向け説明、株主対応、開示スケジュール管理の経験を生かせます。経営企画経験者は、中期計画、重要課題の整理、KPI管理、全社プロジェクト推進の経験が強みになります。
総務や人事では、人的資本、ダイバーシティ、健康経営、社内制度、従業員向けの浸透施策などに接続できます。環境管理や工場管理の経験者は、温室効果ガス、廃棄物、環境法令、ISO、現場改善の知識を生かせます。応募書類では、担当業務を並べるだけでなく、どの課題をどう改善し、誰と連携して成果を出したかを具体的に示しましょう。
コンサルタント・金融・アナリスト経験を生かす方法
コンサルタント経験者は、課題分析、資料作成、プロジェクト管理、経営層への提案といった基本スキルを生かせます。ESG未経験でも、脱炭素、開示、人権、サプライチェーン、事業戦略などのどのテーマに関心があるかを明確にすることで、転職の方向性を作りやすくなります。
金融・アナリスト経験者は、企業分析、投資判断、財務分析、リスク評価、顧客対応の経験を、ESG投資やサステナブルファイナンス、非財務情報分析に結びつけられます。非財務情報を企業価値や投資判断へどう反映させるかを説明できると、専門性を伝えやすくなります。
年収交渉で伝えるべき実績と専門性
年収交渉では、希望額だけを伝えるのではなく、採用企業に提供できる価値を実績で示すことが重要です。たとえば、統合報告書の作成を主導した経験、排出量データの収集体制を構築した経験、取引先調査の回収率を改善した経験、海外拠点を含むプロジェクトを完遂した経験などが該当します。
実績は、可能な範囲で数値化すると説得力が増します。対象部署数、対象拠点数、プロジェクト期間、削減した作業時間、作成した報告書の範囲などを整理しましょう。また、英語、開示基準、GHG算定、監査・保証、調達、人権など、採用企業が必要とする専門性と自分の経験を結びつけて伝えることが大切です。
求人選びで確認したい業務範囲・組織体制・評価制度
ESG担当の求人では、職種名よりも業務範囲を確認する必要があります。開示業務が中心なのか、戦略策定まで担当するのか、温室効果ガス算定を内製するのか、外部支援会社の管理が中心なのかで、得られる経験は変わります。
確認したい主な項目は以下のとおりです。
- 担当するテーマ:開示、脱炭素、人権、人的資本、調達、ESG投資など
- 組織体制:専任部署の人数、上司の専門性、他部門との連携方法
- 権限と役割:企画だけか、実行・予算・外部委託先管理まで担うか
- 評価制度:成果、専門性、プロジェクト推進力のどれが評価されるか
- 働き方:出社頻度、出張、海外との会議時間、繁忙期の業務量
- キャリアパス:管理職、専門職、経営企画、IR、海外部門などへの展開可能性
ESG領域で年収を上げるためには、知識を増やすだけでは不十分です。自分の経験を、企業が抱える開示、脱炭素、人権、調達、投資家対応といった課題の解決につなげて説明し、より大きな責任を担えるポジションを選ぶことが重要です。










