投資では、利益や値下がりの可能性だけでなく、必要なときに資産を現金化できるかも重要です。保有する商品を売りたくても買い手が少なければ、希望する価格で売却できなかったり、取引が成立するまで時間がかかったりします。このようなリスクを流動性リスクといいます。
特に、個別株、ETF、債券、投資信託などを選ぶ際は、値動きや利回りだけでなく、売買のしやすさを確認する必要があります。本記事では、流動性リスクの基本、売買しにくくなる原因、出来高や板情報の見方、投資初心者が取れる対策を解説します。
流動性リスクとは何か
流動性は売りたいときに売買しやすいこと
流動性とは、金融商品を売買しやすい性質のことです。一般に、買い手と売り手が多く、継続的に取引が行われている商品は、流動性が高いといえます。
流動性が高い商品では、売却注文を出した際に取引が成立しやすく、価格も大きく動きにくい傾向があります。一方、取引に参加する人が少ない商品では、希望する価格や数量で取引できない場合があります。これが流動性の低い状態です。
流動性リスクは希望する価格や時期に売れないリスク
流動性リスクとは、保有する金融商品を現金化しようとしたとき、希望する価格やタイミングで売却できないリスクです。売却自体ができない場合だけでなく、すぐに売るために価格を大きく下げなければならない場合も含まれます。
たとえば、株価が1,000円と表示されていても、その価格で買いたい人が十分にいなければ、1,000円で売れるとは限りません。売却したい株数が多いほど、より低い価格の買い注文まで応じることになり、平均の売却価格が下がる可能性があります。
価格変動リスクとの違い
価格変動リスクは、市場環境や企業業績、金利、為替などの変化によって、保有資産の価格そのものが上がったり下がったりするリスクです。市場に十分な買い手がいる場合でも、価格が下落すれば損失が生じる可能性があります。
一方、流動性リスクは、売却したいときに取引相手が見つからない、または希望する価格から大きく離れた価格でしか売れないリスクです。
両者は別のリスクですが、市場が急落する局面では同時に起こりやすくなります。価格が下がることで売却する人が増える一方、買い手が減少すると、取引が成立しにくくなります。
市場での流動性と資金繰りの流動性の違い
市場での流動性は、株式やETF、債券などを市場で売買し、現金化しやすいかという意味です。本記事で主に扱うのは、この市場における流動性です。
これに対して、資金繰りの流動性は、個人や企業が支払期限までに必要な現金を用意できるかを指します。企業であれば、給与、仕入れ代金、借入金の返済などを予定どおりに支払えるかが重要になります。
投資家にとっても、生活費や急な出費に使う資金まで投資に回すと、資金が必要なときに不利な条件で売却せざるを得なくなるおそれがあります。市場での流動性と家計の資金繰りは、どちらも資産管理に関わる重要な視点です。
売りたいときに売れない原因
買い手や売り手が少ない
日常的な売買が少ない銘柄では、買い注文と売り注文の数が限られます。小型株や知名度の低い銘柄、取引が少ないETFなどでは、取引参加者が少なく、売却注文に対応する買い手が見つかりにくい場合があります。
取引が少ない銘柄では、数百株や数千株といった注文でも価格に影響しやすくなります。購入時には問題なく見えても、売却時に同じ条件で取引できるとは限りません。
売却注文が集中して買い手が不足する
企業の不祥事、業績悪化、上場廃止に関する懸念などが生じると、多くの投資家が同時に売却を急ぐことがあります。このとき、売り注文が集中しても買い注文が少なければ、取引は成立しにくくなります。
上場廃止が決まった銘柄などでは、取引所で売買できる期間が限られるため、売却を急ぐ投資家が増えることがあります。しかし、買い手が不足すれば、売り注文が並んでも価格がつかない状況になり得ます。
市場が急変して取引が成立しにくくなる
通常は取引が活発な商品でも、市場全体が急変する局面では流動性が低下する場合があります。金融不安、地政学的な問題、急激な金利変動などが発生すると、多くの投資家がリスクを避けようとして売却に動くためです。
こうした局面では、買い手が慎重になり、最良買い気配と最良売り気配の差が広がりやすくなります。売却できたとしても、平常時より不利な価格になる可能性があります。
取引時間や売買の仕組みに制約がある
取引所に上場している株式やETFは、原則として取引時間中にしか売買できません。また、海外資産を対象とする商品では、投資対象となる国や地域の市場が休場していることもあります。
投資信託は、一般に注文を出してから基準価額が決まり、入金までに数営業日かかる場合があります。債券は取引所ではなく、金融機関などとの相対取引で売買されることが多く、売却価格や買い手を確認する必要があります。
流動性が低いと起こりやすい問題
希望する価格より安く売ることになる
流動性が低い商品の代表的な問題は、早く現金化しようとすると価格を下げざるを得ないことです。買い注文が少ない場合、売却数量をすべて処理するには、より低い価格帯の注文まで売る必要が出てきます。
これは、保有資産の価値が下がったことによる損失とは別に、売買のしにくさによって発生する損失です。取引のしにくさが実質的なコストになる点を理解しておく必要があります。
売却注文を出してもすぐに成立しない
指値注文を出しても、その価格で買いたい人が現れなければ注文は成立しません。希望価格を維持すれば売却まで時間がかかり、売却を急げば価格面で譲歩することになります。
必要な時期までに現金化できなければ、別の資産を売却したり、資金計画を見直したりする必要が生じる可能性があります。
少額の注文でも価格が大きく動く
板に並ぶ注文量が少ない銘柄では、小さな売買でも価格が複数の価格帯にまたがることがあります。たとえば、最も高い買い注文の数量が少なければ、成行売りの一部は次に低い価格で約定します。
このような状態では、成行注文を出すことで、想定より安く売れたり高く買えたりする可能性があります。売買数量が大きいほど、価格への影響も大きくなります。
分散投資をしていても必要なときに現金化できない
複数の商品に分散投資していても、すべてが売買しにくい商品に偏っていれば、資金が必要なときに十分な現金を確保できない可能性があります。
分散投資では、投資対象の地域や資産の種類だけでなく、現金化しやすさも確認することが重要です。生活費や近いうちに使う予定の資金は、価格変動がある商品や換金に時間がかかる商品とは分けて管理する必要があります。
出来高と売買代金で流動性を確認する方法
出来高は一定期間に成立した売買の量
出来高とは、一定期間に成立した売買数量です。株式であれば、その日に何株の売買が成立したかを示します。出来高が多い銘柄は取引参加者が多く、一般に売買しやすい傾向があります。
ただし、出来高が多いからといって、常に希望価格で取引できるわけではありません。自分が売買したい数量に対して十分な取引量があるか、板の注文量はどうかを確認する必要があります。
売買代金は取引の規模を確認する指標
売買代金は、成立した売買の金額を示す指標です。株価が高い銘柄では、出来高だけでは取引規模を判断しにくいことがあります。そのため、出来高とあわせて売買代金を確認することが有効です。
たとえば、株価が高い銘柄では出来高が少なく見えても、売買代金は大きい場合があります。反対に、株価が低く出来高が多くても、売買代金が小さければ、大きな資金を動かすには不向きな可能性があります。
日々の数値だけでなく推移を見る
出来高や売買代金は、1日だけの数値では判断しにくいことがあります。決算発表やニュースを受けて一時的に売買が増えているだけのケースもあるためです。
確認する際は、数日から数週間、必要に応じてさらに長い期間の推移を見ます。普段から安定して取引されているのか、特定の日だけ増えているのかを把握すると、売買のしやすさを判断しやすくなります。
自分が売買する金額と比べて確認する
流動性を判断する際は、自分の注文金額を基準に考えることが重要です。日々の売買代金が大きくても、自分の注文額がその規模に対して大きければ、市場価格に影響を与える可能性があります。
特に、まとまった金額を売買する場合は、一度に注文を出すのではなく、注文を複数回に分ける方法も検討できます。ただし、分割しても価格変動や取引不成立のリスクをなくせるわけではありません。
出来高が多くても注意が必要な場面
出来高が急増している場面では、売買しやすく見えても注意が必要です。好材料や悪材料が出た直後、急騰や急落が起きている場面では、多くの注文が短時間で出入りし、板の状況が大きく変化します。
また、ETFでは取引所での出来高だけで流動性を判断しないことが重要です。ETFは、指定参加者などが設定・交換を行う仕組みを持ち、組み入れ資産の流動性も取引のしやすさに影響します。取引所での売買量が少ないETFでも、組み入れ資産が流動性の高い大型株などであれば、一定の売買が可能な場合があります。
一方で、ETFが投資する市場や組み入れ資産そのものの取引が難しくなれば、ETFの売買にも影響が及びます。ETFでは、出来高に加え、売買価格と基準価額の差、スプレッド、対象資産の特性も確認しましょう。
板情報から売買のしやすさを判断する方法
板情報でわかる買い注文と売り注文
板情報は、価格ごとに出ている買い注文と売り注文の数量を示す一覧です。一般に、中央に近い売り注文のうち最も安い価格を最良売り気配、中央に近い買い注文のうち最も高い価格を最良買い気配といいます。
株式は、買い手と売り手の価格や数量の条件が一致したときに取引が成立します。板を見ることで、今すぐ売却した場合にどの程度の価格で売れそうか、注文数量が十分かを確認できます。
買値と売値の差が大きい場合の注意点
最良売り気配と最良買い気配の差を、スプレッドといいます。スプレッドが大きい銘柄は、買うときと売るときの価格差が大きく、売買コストがかさみやすい状態です。
たとえば、最良売り気配が510円、最良買い気配が490円の場合、成行で買うと510円付近、すぐに売ると490円付近で約定する可能性があります。価格が動かなくても、売買の往復で不利になりやすいため、スプレッドが広い銘柄では慎重な判断が必要です。
注文量が少ない板で起こる価格の変動
板の各価格帯に並ぶ注文量が少ない場合、注文が複数の価格帯にまたがって約定しやすくなります。これを避けずに大きな成行注文を出すと、自分の注文によって価格を動かしてしまうことがあります。
板は常に変化し、表示されている注文が取り消されることもあります。そのため、板に大きな注文があるからといって、必ずその価格で取引できるわけではありません。板は売買の参考情報として使い、単独で投資判断を決めないことが重要です。
成行注文と指値注文の使い分け
成行注文は価格を指定せず、取引の成立を優先する注文です。流動性が高く、板の注文量が十分な銘柄では利用しやすい場合がありますが、急変時や板が薄い銘柄では予想外の価格で約定するおそれがあります。
指値注文は、買う価格の上限や売る価格の下限を指定する注文です。価格をコントロールしやすい一方、指定した価格に届かなければ取引は成立しません。
流動性が低い商品や市場が大きく動いている局面では、価格を重視するなら指値注文を検討する方法があります。ただし、指値注文でも売却が保証されるわけではなく、資金が必要な期限がある場合は特に注意が必要です。
商品別に見る流動性リスク
個別株は小型株や取引の少ない銘柄に注意する
個別株では、一般に小型株や新興市場の銘柄、日常的な取引が少ない銘柄で流動性リスクが高まりやすい傾向があります。発行済み株式数が少ない、投資家の関心が限られるといった要因により、板が薄くなりやすいためです。
購入前には、日々の出来高と売買代金、板の厚み、スプレッドを確認しましょう。魅力的な成長性や配当利回りが見込める場合でも、売却のしにくさを含めて判断する必要があります。
ETFは取引量と対象資産の売買しやすさを確認する
ETFは取引所で売買できる投資信託であり、株式と同様に市場価格で取引します。取引所での出来高、売買代金、スプレッド、板情報は基本的な確認項目です。
ただし、ETFの流動性は取引所で見える出来高だけで決まりません。ETFを構成する株式や債券などの原資産が売買しやすいか、価格と基準価額の差が大きくなっていないかも重要です。
市場環境が悪化すると、ETFの市場価格が基準価額から乖離する場合があります。特に海外市場が閉まっている時間帯や、流動性が低い資産を対象とするETFでは、価格の差が広がる可能性があります。
投資信託は解約から入金までの日数を確認する
一般的な公募投資信託は、原則として営業日に解約を申し込めます。ただし、申込時点で売却価格が確定するとは限らず、基準価額が決まるタイミングや、解約代金が入金されるまでの日数は商品によって異なります。
また、投資信託が保有する資産の流動性が低い場合、解約が集中すると、ファンドが保有資産を不利な価格で売却する必要が生じる可能性があります。投資対象が小型株、新興国資産、低格付け債券などの場合は、目論見書で換金条件や投資対象を確認しましょう。
債券は途中売却時の価格や買い手を確認する
個別債券は満期まで保有する場合と、途中で売却する場合で注意点が異なります。途中売却では、市場金利、発行体の信用状況、残存期間、市場環境などにより価格が変動します。
債券の多くは相対取引で売買されるため、株式のように取引所の板を見てすぐに売買できるわけではありません。途中売却を想定する場合は、売却の可否や価格の決まり方を事前に確認する必要があります。
非上場商品や換金に条件がある商品は仕組みを確認する
非上場株式、不動産関連の商品、私募商品などは、取引所でいつでも売買できるとは限りません。売却先が限定される、一定期間は解約できない、換金に手数料がかかるといった条件が設けられている場合があります。
商品を購入する前に、解約や譲渡の条件、資金が戻るまでの期間、途中換金時の価格の決まり方を確認しましょう。高い利回りや特典だけで判断せず、必要なときに資金を引き出せる仕組みかを見極めることが重要です。
投資初心者が流動性リスクを抑えるための対策
購入前に出来高と売買代金を確認する
個別株やETFを購入する前には、出来高と売買代金を確認しましょう。単に当日の数値を見るだけでなく、過去数週間から数か月の推移を確認し、日常的に取引が行われているかを見ます。
あわせて、実際に注文を出す直前には板情報とスプレッドも確認します。自分が予定している売買金額に対して、取引規模や板の注文量が十分かを考えることが大切です。
売却を急がなくてよい資金で投資する
流動性リスクを完全になくすことはできません。市場が急変する局面では、普段は売買しやすい商品でも取引条件が悪化する可能性があります。
そのため、近いうちに使う予定がある資金や、すぐに必要になる可能性が高い資金を、値動きが大きい商品や換金しにくい商品に回さないことが基本です。投資に回す資金は、売却時期をある程度調整できる余裕資金に限定します。
生活費や緊急時の資金は別に確保する
病気、失業、住宅修繕、家電の買い替えなど、急な支出が必要になることがあります。こうした支出に備える資金は、投資資金とは分けて、必要なときに引き出しやすい預金などで確保しておくことが重要です。
緊急資金を確保しておけば、市場が下落し流動性も低下している局面で、投資商品を無理に売却する必要を減らせます。
一つの商品や取引の少ない銘柄に集中しない
一つの銘柄や商品に資金を集中させると、その商品の流動性が低下した際に資産全体を現金化しにくくなります。複数の資産、地域、商品に分けることに加え、流動性の異なる商品をどう組み合わせるかも考える必要があります。
ただし、銘柄数を増やすだけでは十分ではありません。保有商品の中に売買しにくいものが多すぎないか、資産全体として必要な現金を確保できるかを定期的に確認しましょう。
市場が大きく動く局面では注文方法を慎重に選ぶ
急騰や急落が起きているときは、板の状況が短時間で変わり、スプレッドも広がりやすくなります。このような局面で成行注文を出すと、想定より不利な価格で約定する可能性があります。
価格を優先したい場合は指値注文を検討し、取引が成立しない可能性も受け入れる必要があります。一方で、すぐに現金化する必要がある場合には、価格と取引成立のどちらを優先するかを整理して判断します。
流動性リスクは、平常時には意識されにくいリスクです。しかし、売却を急ぐ局面や市場が混乱する局面で大きな影響を及ぼします。投資先を選ぶ際は、期待できる利益だけでなく、売りたいときにどの程度売買しやすいかも確認しましょう。












