公認会計士は監査法人だけでなく、事業会社、FAS、コンサルティングファーム、金融機関、独立開業など、多様な場で専門性を生かせます。一方で、年収だけを基準に選ぶと、繁忙期の負荷や将来の選択肢が想定と異なる場合があります。
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査では、公認会計士・税理士の平均年収は約856万円です。ただし、この数値は両資格を合算したものであり、勤務先、役職、地域、残業代、賞与によって実際の報酬には大きな差があります。本記事では、転職先ごとの特徴を整理し、自身の目的に合う選択肢を見極めるための考え方を解説します。
公認会計士の転職市場と2026年の求人動向
公認会計士が転職しやすいといわれる理由
公認会計士は、財務諸表を読み解く力、会計基準への理解、内部統制の評価、監査対応の経験を持つ専門人材です。これらは監査法人だけでなく、上場企業の経理財務、内部監査、経営企画、M&A支援、IPO準備などでも求められます。
近年は、会計基準や開示制度の複雑化、海外子会社を含む連結管理、M&Aの増加などを背景に、会計と経営の両方を理解する人材への需要が続いています。監査法人で数年の経験を積んだ会計士であれば、監査経験を土台にしながら、事業会社やアドバイザリー領域へ転じる機会を探しやすい状況です。
ただし、「資格があるから必ず希望条件で転職できる」とは限りません。採用側は資格に加え、担当業種、連結決算、主査経験、英語、IPO、M&A、マネジメント経験などを見ています。転職市場では、監査経験をどのように事業課題の解決へつなげられるかが重要です。
監査経験だけでは差がつきにくくなっている背景
監査経験は公認会計士としての基礎であり、監査対応や財務報告の信頼性を担保する場面で高く評価されます。一方で、監査法人出身者が多い職種では、「監査経験があること」自体は前提条件となりやすく、差別化にはつながりにくい面があります。
特に年収や役職の上昇を目指す場合は、監査に加えて何ができるかが問われます。たとえば、M&Aにおける財務調査、企業価値評価、海外基準への対応、決算早期化、資金調達、予算管理、IPO準備などの経験は、転職市場での評価を高めやすい要素です。
監査法人に在籍している段階でも、担当クライアントの業界知識を深める、連結や海外関連の案件に手を挙げる、IPO支援やアドバイザリー案件に関わるなど、次のキャリアで説明できる経験を意識して蓄積することが重要です。
AI活用と開示制度の変化で高まる専門人材の需要
AIや会計システムの進化により、仕訳入力、証憑確認、定型的な集計作業などは効率化が進んでいます。その一方で、数値の背景を分析し、経営上の論点を整理し、会計処理や開示方針を判断する役割の重要性は高まっています。
企業に求められるのは、単に決算を締める人材ではありません。AIなどを活用しつつ、会計数値をもとに課題を把握し、経営者、事業部、投資家、監査人などと適切に調整できる人材です。会計士には、こうした判断・説明・統制構築の領域で強みがあります。
また、サステナビリティ情報を含む非財務情報の開示、国際会計基準への対応、グループガバナンスの強化なども進んでいます。監査、開示、内部統制、データ活用を横断できる会計士は、今後も事業会社や専門ファームで求められやすいと考えられます。
転職で年収が上がるケースと下がるケース
転職時に年収が上がりやすいのは、監査経験に加えて希少性のある経験を持つ場合です。具体的には、M&A、企業価値評価、IPO、IFRS、英語を使う業務、海外子会社管理、経営企画、CFO候補などが挙げられます。責任範囲が広く、採用難易度が高いポジションほど、報酬も高くなりやすい傾向があります。
会計系求人を集計した民間調査では、全国の平均年収はPEファンド934万円、戦略コンサルティング926万円、経営企画801万円、監査法人アドバイザリー783万円、FAS766万円とされています。一方、会計事務所は609万円、税理士法人は619万円でした。これらは求人上の平均値であり、個人の経験や地域で変動する点には注意が必要です。
年収が下がりやすいのは、未経験領域へ転じる場合、残業代が減る場合、成長企業で将来性を優先して固定給を抑える場合などです。たとえば、監査法人で残業代を含めて高い年収を得ていた人が、残業の少ない事業会社へ移ると、年収総額が一時的に下がることがあります。
そのため、転職時は提示年収だけではなく、基本給、賞与、残業代、退職金、株式報酬、昇給余地をまとめて比較する必要があります。
転職先を比較するための6つの判断軸
転職先を比較する際は、年収、働き方、業務内容、将来につながる経験、勤務地に加え、自身のキャリア目標との一致を確認することが重要です。年収が高くても、目指すCFO、独立、専門領域の確立につながらなければ、中長期的な満足度は下がる可能性があります。
年収は基本給・賞与・残業代・株式報酬を含めて比較する
年収は、求人票の数字だけで判断しないことが重要です。固定残業代の有無、残業代の別途支給、賞与の標準支給月数、業績連動部分、退職金、住宅手当などで実質的な待遇は変わります。
スタートアップやIPO準備企業では、固定給に加えてストックオプションが付く場合があります。ただし、株式報酬は将来価値が確定しているものではありません。固定報酬と分けて捉え、生活設計上必要な収入を固定給で確保できるかを確認しましょう。
また、東京の求人は地方と比べて高い傾向があります。民間の求人集計では、会計士向け求人の年収は東京都で全国平均よりおおむね30万〜50万円高いとされています。ただし、生活費や通勤負担も考慮する必要があります。
繁忙期の残業時間と年間を通じた働き方を確認する
「残業が少ない」という情報だけで判断せず、月次、四半期、年度決算、監査対応、予算策定、IPO対応などの時期ごとの負荷を確認しましょう。監査法人は決算期に業務が集中しやすく、FASやコンサルティングファームは案件の終盤に負荷が高まりやすい特徴があります。
事業会社の経理財務は年間業務の見通しを立てやすい一方、決算期やM&A、システム導入、制度変更の局面では忙しくなることがあります。内部監査は比較的計画的に働きやすい場合がありますが、海外拠点の監査や不正調査が発生すると負荷が上がることもあります。
面接では、通常月と繁忙月の残業時間、休日出勤の有無、在宅勤務の頻度、繁忙期のチーム体制を具体的に確認することが大切です。
監査以外の実務経験を得られるかで判断する
監査法人から転職する場合は、監査以外の経験を得られるかが重要な判断軸です。事業会社の経理であれば、決算作成、税務、予算管理、資金管理、監査対応などを当事者として経験できます。
経営企画では、予算策定、予実分析、投資判断、事業計画、M&Aの検討など、経営に近い経験を積めます。FASでは財務調査、企業価値評価、再生支援、M&A実行支援などの専門性を深められます。
入社後に実際に任される業務は、求人票だけでは分かりません。担当する範囲、チーム内での役割、決裁権の範囲、将来的に経験できる業務を確認しましょう。
IPO・M&A・海外案件など将来につながる経験を見極める
IPO、M&A、海外案件、IFRS対応、資金調達などは、会計士の市場価値を高めやすい経験です。将来CFOや独立を目指す場合は、決算経験だけでなく、資本政策、資金調達、株主対応、監査法人や証券会社との調整など、経営に近い実務を得られるかが重要になります。
ただし、求人票に「IPOに関われる」と記載されていても、上場準備のどの段階にあるか、主幹事や監査法人が決まっているか、社内の管理体制がどこまで整っているかによって、実務の濃さは異なります。
M&Aについても、案件の初期検討から関われるのか、買収後の統合だけを担うのかで得られる経験は変わります。自身の目標から逆算して、必要な経験を明確にしておくことが大切です。
勤務地・リモートワーク・転勤の有無を確認する
働き方の希望は、入社後の定着に直結します。勤務地、転勤の可能性、出張頻度、リモートワークの利用条件、フレックスタイム制度、育児・介護との両立支援などを確認しましょう。
外資系企業やグローバル企業では、海外拠点との会議により早朝・夜間対応が発生する場合があります。金融機関やFASでは、案件に応じて出張や顧客先常駐があることもあります。
制度があるかだけでなく、実際に利用されているか、所属予定部署で利用しやすいかを確認することが重要です。
公認会計士におすすめの転職先13選|専門性を深める選択肢
監査法人|監査経験を生かして昇格や専門領域の確立を目指す
監査法人への転職は、監査を続けたい人、上場企業監査の経験を深めたい人、将来的にマネージャーやパートナーを目指す人に向きます。大手から中小、中小から大手への移動もあり、法人規模によって担当業務や働き方は異なります。
大手監査法人では、業界別の専門性、国際案件、品質管理、IPO支援などに触れやすい一方、業務が分業化されやすい面があります。中小監査法人では、早い段階から主査や顧客対応を任され、幅広い実務を経験できる場合があります。
監査を軸にキャリアを積む場合でも、将来どの領域で差別化するかを考えることが大切です。金融、IT、製造、IPO、学校法人、公益法人、国際業務など、得意分野を持つことで次の選択肢が広がります。
監査法人のアドバイザリー部門|会計と課題解決の両方に携わる
監査法人のアドバイザリー部門では、会計基準の導入支援、内部統制支援、IPO支援、財務報告支援、不正調査、M&A関連支援などに携わります。監査経験を生かしながら、課題解決型の業務へ広げたい人に向く選択肢です。
会計の正確性を確認する立場から、企業の課題を整理し、改善策を提案・実行する立場へ移れる点が特徴です。FASやコンサルティングファーム、事業会社の経営企画や内部統制部門へのキャリアにもつながりやすいでしょう。
一方で、案件ごとに求められる成果が明確であり、納期前には業務量が増えることがあります。扱うサービス、案件規模、顧客層、専門領域を確認し、自身が積みたい経験に合うかを見極める必要があります。
FAS|M&A・企業価値評価・事業再生で高年収を狙う
FASは、M&A、財務調査、企業価値評価、事業再生、フォレンジックなどを扱う領域です。会計士の財務分析力を生かしながら、取引や投資の意思決定に近い仕事をしたい人に適しています。
民間の求人集計では、FASの平均年収は全国で766万円、東京で802万円とされています。経験を積み、マネジメント層や案件責任者になることで、さらに高い報酬を目指せる可能性があります。
ただし、FASでは監査経験だけでなく、財務モデリング、企業価値評価、M&Aプロセス、資料作成、顧客との折衝などが求められます。案件の進行状況によっては長時間労働になりやすいため、年収と働き方の両面を確認しましょう。
コンサルティングファーム|会計を軸に経営課題の解決に関わる
コンサルティングファームでは、経営戦略、業務改善、DX、財務改革、PMI、事業再生など、会計に限らない経営課題に関わります。会計を起点にしつつ、より広い経営テーマを扱いたい人に向きます。
会計士が入りやすいのは、財務会計、管理会計、M&A、リスク管理、内部統制、事業再生などの領域です。戦略コンサルティングでは、会計以外の論点も扱うため、論理的思考力、仮説構築力、資料作成力、顧客とのコミュニケーション力が必要になります。
民間の求人集計では、戦略コンサルティングの平均年収は全国で926万円と高い水準です。ただし、求人数は限られ、選考難易度も高い傾向があります。高年収だけでなく、どの分野の専門家になりたいかを明確にして検討することが重要です。
税理士法人・会計事務所|税務や事業承継の専門性を身につける
税理士法人・会計事務所は、税務、相続、事業承継、組織再編、資産税、オーナー企業支援などの専門性を身につけたい人に向きます。将来、税務を軸に独立したい人にとっては有力な選択肢です。
転職直後の年収は、FASや大手事業会社より低くなる場合があります。民間の求人集計では、会計事務所の平均年収は609万円、税理士法人は619万円とされています。ただし、専門性の高い税務や組織再編、M&A関連業務に関われる場合は、将来的な報酬や独立可能性を高められます。
税務は監査とは異なる知識と実務感覚が必要です。申告書作成、税務調査対応、顧客との継続的な関係構築などに関心を持てるかを確認したうえで選びましょう。
公認会計士におすすめの転職先13選|事業会社で経験を広げる選択肢
上場企業・大手企業の経理財務|決算から資金管理まで事業会社の実務を担う
上場企業や大手企業の経理財務は、監査される側の実務を経験したい人、働き方を安定させたい人に向く選択肢です。月次・四半期・年次決算、連結決算、開示、税務、資金管理、監査対応などを担います。
民間の求人集計では、経理の平均年収は全国で689万円、東京で736万円とされています。監査法人の監査部門の求人平均を上回るという集計もありますが、実際の条件は経験、企業規模、役職、残業代で異なります。
経理では、監査対応の知識に加え、現場部門と連携して業務を進める力が求められます。将来の選択肢を広げるには、連結決算、税務、海外子会社管理、M&A、IFRS、決算早期化など、付加価値の高い業務に関われる企業を選ぶとよいでしょう。
内部監査・内部統制|統制評価の経験を生かして企業の信頼性を支える
内部監査・内部統制は、会社の業務が適切に行われているかを確認し、不正やミスの予防、業務改善、ガバナンス強化を支える仕事です。監査法人で培ったリスク評価や統制評価の経験を生かしやすい領域です。
上場企業では、財務報告に関する内部統制の整備・評価、グループ会社監査、海外拠点監査、監査役や取締役会への報告などを担当することがあります。監査経験を直接生かせるため、初めての事業会社転職先としても検討されます。
一方で、内部監査だけに業務範囲が固定されると、事業経験や財務戦略の経験を得にくい場合があります。将来のキャリアを広げたい場合は、業務監査、海外監査、リスク管理、内部統制構築など、幅広い役割を担えるかを確認しましょう。
経営企画・IR|予算管理や投資家向け情報発信を通じて経営に近づく
経営企画は、予算策定、予実分析、中期経営計画、投資判断、M&A検討などを通じて経営を支える職種です。IRは、決算説明資料や投資家との対話を通じて、企業の価値を市場へ伝える役割を担います。
民間の求人集計では、経営企画の平均年収は全国で801万円、東京で830万円とされています。会計士には、数値分析、開示理解、監査対応の経験があるため、経理経験や事業理解を組み合わせることで活躍しやすくなります。
ただし、経営企画やIRは会計知識だけでは完結しません。事業の収益構造を理解し、経営陣や事業部と議論し、分かりやすく資料化する力が求められます。財務会計から管理会計や事業分析へ領域を広げたい人に適しています。
外資系企業の経理財務|英語と国際会計基準を生かして報酬水準を高める
外資系企業の経理財務では、本国への報告、海外拠点との連携、国際会計基準への対応、予算管理、事業分析などに携わります。英語と国際会計基準の知識を生かしたい人に向く選択肢です。
外資系企業は、役割と成果に応じて報酬を決める傾向があり、専門性が合致すれば高い報酬を得られる可能性があります。一方で、年功的な昇給を前提としない企業も多く、成果を出し続けることが求められます。
転職を目指す場合は、英語資格の点数だけでなく、会議、メール、報告資料、海外関係者との調整を英語で行えるかが重要です。US-GAAPやIFRS、海外子会社監査、英文財務諸表の経験があると評価されやすくなります。
公認会計士におすすめの転職先13選|成長性と収入の上限を広げる選択肢
IPO準備企業・スタートアップの経理責任者・CFO候補|上場準備を主導する
IPO準備企業やスタートアップでは、経理責任者やCFO候補として、決算体制、内部統制、資金調達、事業計画、監査対応、上場準備を幅広く担います。早い段階から経営に近い立場で働きたい人に向く選択肢です。
固定年収は大手企業より低い場合がありますが、CFO候補ではストックオプションが付与されることがあります。民間の求人集計では、ベンチャーCFOの平均年収は全国で756万円、東京で819万円とされていますが、企業の成長段階や役割で幅があります。
注意すべき点は、上場準備は不確実性が高く、業務範囲も広いことです。経理だけでなく、資金調達、規程整備、採用、監査法人・証券会社との調整などを担う場合があります。上場準備の進捗、資金繰り、経営陣との役割分担、管理部門の人数を確認しておきましょう。
金融機関・投資銀行|財務分析や案件支援の専門性を生かす
金融機関や投資銀行では、企業分析、M&Aアドバイザリー、資金調達支援、審査、投資判断などに関わります。財務分析の力を生かし、取引や投資の現場に近い仕事をしたい人に向きます。
年収水準は高い傾向がありますが、職種や所属部署によって働き方は大きく異なります。民間の求人集計では、投資銀行の平均年収は764万円とされていますが、採用件数が少ないため、数値は参考として捉える必要があります。
投資銀行や金融機関では、監査経験だけでなく、M&A、企業価値評価、英語、顧客折衝、スピード感のある資料作成などが求められます。高い負荷を許容できるか、金融領域で専門性を築きたいかを見極めることが重要です。
PEファンド・ベンチャーキャピタル|投資先の価値向上に関わる
PEファンドは、投資先企業の買収や価値向上、売却を通じてリターンを目指す投資会社です。ベンチャーキャピタルは、成長企業へ投資し、成長支援を行います。いずれも企業価値、財務、経営に深く関わる仕事です。
民間の求人集計では、PEファンドの平均年収は934万円と高水準ですが、求人件数は多くありません。採用では、監査経験に加え、FAS、投資銀行、事業会社での経営経験、M&A経験、英語力などが求められる傾向があります。
投資先の事業を理解し、経営陣と議論し、価値向上の施策を実行するため、会計だけでなく事業を見る力が必要です。会計士が最初から目指すよりも、FASや投資銀行、事業会社の経営企画などを経て挑戦するケースが一般的です。
独立開業・非常勤|収入源を複数持ち働き方の自由度を高める
独立開業は、税務顧問、会計コンサルティング、IPO支援、M&A支援、非常勤監査、社外役員などを組み合わせて働く選択肢です。年収の上限がない一方で、顧客獲得、営業、事務所運営、収入変動のリスクを自ら負う必要があります。
独立直後は顧客基盤がなく、収入が不安定になりやすいため、非常勤監査を組み合わせる会計士もいます。非常勤の報酬は契約内容、経験、責任範囲で大きく異なりますが、専門性を生かして稼働日数を調整しやすい点が特徴です。
独立を視野に入れる場合は、税務実務、営業、人脈、専門領域を早めに準備することが重要です。監査法人からすぐに独立するよりも、税務、FAS、事業会社CFOなどの経験を積んでから独立した方が、提供できるサービスの幅を広げやすい場合があります。
キャリア段階と目的別に見る転職先の選び方
監査法人1〜3年目が優先すべき経験と転職タイミング
監査法人1〜3年目は、まず監査の基礎を身につける時期です。現金預金、有価証券、売上、固定資産、連結、開示など、担当領域を広げ、財務諸表全体を見る力を養うことが重要です。
この段階で早期転職をすると、未経験ポジションに採用される可能性はあるものの、会計士としての基礎経験が不足し、選択肢や年収が限られる場合があります。特別な事情がなければ、少なくとも主査経験や決算全体への関与を得てから転職を検討する方が、説明できる実績を作りやすいでしょう。
ただし、心身の健康に影響するほど環境が合わない場合は、無理に在籍年数へこだわる必要はありません。監査法人間の転職、事業会社の経理、内部監査など、経験年数に応じた選択肢を比較しましょう。
シニア・マネージャー層が年収と役職を上げる選択肢
シニア・マネージャー層は、年収と専門性を高めやすい時期です。監査法人に残って昇格を目指すほか、FAS、アドバイザリー、経営企画、CFO候補、外資系経理財務などへ進む選択肢があります。
マネージャー層では、個人作業だけでなく、チーム管理、顧客対応、案件の進行管理、後輩育成が評価されます。転職時も、担当した業務だけでなく、どのようにチームを動かし、どの課題を解決したかを説明できることが重要です。
年収を上げるなら、監査経験を「管理できる」「改善できる」「意思決定を支援できる」経験へ変換できるポジションを選ぶとよいでしょう。
ワークライフバランスを改善したい人に向く転職先
ワークライフバランスを重視する場合、上場企業・大手企業の経理財務、内部監査、中小監査法人、非常勤などが候補になります。ただし、職種名だけで働き方を判断するのは危険です。
日本公認会計士協会の組織内会計士に関する調査では、ワークライフバランスが取れていると回答した割合は、監査法人職員で38.7%、組織内会計士で62.2%でした。組織内会計士の方が働き方に満足する傾向は見られますが、企業や部署による差はあります。
転職時は、通常月と繁忙月の残業、休日出勤、急な業務の発生頻度、リモートワークの実態、欠員時のフォロー体制まで確認しましょう。
将来CFO・独立を目指す人が積むべき経験
CFOを目指すなら、監査経験に加えて、経理、資金調達、予算管理、経営企画、IPO、M&A、投資家対応などの経験が重要です。特に事業会社で、数字を作るだけでなく、事業計画や資金繰りに関わる経験は大きな強みになります。
独立を目指すなら、税務、顧客対応、営業、人脈形成、専門領域の確立が必要です。税務顧問を収入の土台にするなら税務実務を、コンサルティングを主軸にするならIPO、M&A、事業再生などの高付加価値領域を学ぶ必要があります。
どちらの目標でも、転職先を選ぶ際には「入社後に何を任せてもらえるか」を具体的に確認することが重要です。
年収1,000万円以上を目指すためのキャリアの考え方
年収1,000万円は、公認会計士にとって十分に現実的な目標ですが、到達時期と方法は人によって異なります。監査法人でマネージャー以上を目指す、FASやコンサルティングファームで高付加価値案件を担う、外資系企業で専門性を発揮する、CFOとして経営を担う、独立して顧客基盤を築くといった道があります。
重要なのは、短期の年収だけでなく、将来の年収上限を高める経験を選ぶことです。たとえば、年収が少し下がってもIPOやM&Aの経験を得られるなら、その後の市場価値を高められる可能性があります。
一方で、年収の高さには責任や業務負荷が伴います。自身が重視する収入、時間、成長、安定のバランスを明確にしてキャリアを設計しましょう。
公認会計士が転職を成功させるための準備と注意点
現職の経験を職務経歴書で伝わる形に整理する
職務経歴書では、担当会社名や担当科目を並べるだけでは不十分です。どの規模・業種の企業を担当したか、連結や開示に関わったか、主査として何人のチームを管理したか、どのような課題を解決したかを整理しましょう。
たとえば、監査経験は「法定監査を担当」ではなく、「上場企業の連結決算・開示監査を担当し、監査上の論点整理や経理部との調整を担った」と表現すると、事業会社でも生かせる経験として伝わりやすくなります。
応募先ごとに求められる経験は異なるため、経理、FAS、内部監査、経営企画など、職種に合わせて強調する内容を変えることが重要です。
年収だけでなく業務内容と成長機会を確認する
提示年収が高くても、業務が限定的で成長機会が少ない場合、中長期的な市場価値が伸びない可能性があります。反対に、一時的に年収が下がっても、IPO、M&A、英語、経営企画、税務などの経験を得ることで、次の転職や独立につながる場合があります。
転職先を選ぶ際は、3年後にどのような経験が職務経歴書に書けるかを考えましょう。自身が目指すキャリアに必要な経験を逆算し、現職で得られないものを補える転職先を選ぶことが重要です。
入社後の役割・組織体制・評価制度を面接で確認する
入社後のミスマッチを防ぐには、役割、組織体制、評価制度を具体的に確認する必要があります。特に少人数の管理部門やスタートアップでは、求人票に記載されない業務まで担うことがあります。
確認したい項目は、配属部署の人数、上司の経歴、引き継ぎの有無、決算や監査対応の分担、将来の採用計画、評価基準、昇給・昇格の仕組みなどです。
また、会計士として採用される場合、専門家としての助言を期待されるのか、実務の手を動かす担当者として期待されるのかを確認しましょう。期待される役割が曖昧なまま入社すると、双方に認識のずれが生じやすくなります。
繁忙期や残業時間の実態を見極める
残業時間は平均だけでなく、年間で最も忙しい月、休日出勤、急な業務発生、離職者の状況などを確認しましょう。繁忙期に業務が増えること自体は珍しくありませんが、業務が特定の人へ過度に集中していないか、組織として対策が取られているかが重要です。
可能であれば、面接で直属の上司や同じ部署のメンバーと話し、実際の働き方を確認しましょう。リモートワークやフレックス制度も、制度の有無だけでなく、利用実績を聞くことが大切です。
複数の求人を比較して転職先を決める
転職活動では、早期に一社へ絞り込みすぎず、複数の求人を比較することが重要です。比較対象があることで、自身の市場価値、希望条件、各社の特徴を客観的に把握しやすくなります。
比較する際は、年収、業務内容、成長機会、働き方、組織体制、勤務地、将来のキャリアパスを同じ基準で整理しましょう。内定が出た際は、提示条件だけでなく、面接を通じて感じた組織との相性も判断材料にします。
公認会計士の転職先は多岐にわたります。だからこそ、目先の条件だけではなく、5年後、10年後にどのような専門性を持ち、どのように働きたいかを起点に選ぶことが、納得できる転職につながります。










