物流の2024年問題で卸売業に起きている変化
2024年問題とは、働き方改革関連法によってトラックドライバーの時間外労働に年間960時間の上限規制が設けられることにより、物流業界で生じる諸問題の総称です。この規制は、2024年4月から自動車運転業務にも適用され、卸売業の配送体制や物流コストに大きな影響を与えています。
トラック運転者の時間外労働規制が配送に与える影響
トラック運転者の時間外労働規制が強化されたことで、1人のドライバーが1日に運べる距離や時間が減少し、結果として運べる物量も制約されます。これにより、特に長距離輸送や多頻度小口配送を行う卸売業では、配送リードタイムの長期化や配送便の減少といった影響が顕在化しています。
運賃・燃料費・作業費の上昇による物流コスト増
2024年問題は、運送会社の人件費増加、1配送あたりの売上減少を引き起こし、運賃値上げの動きを加速させています。また、世界情勢による原油価格の高騰は燃料費に直結し、物流コスト全体の増加を招いています。さらに、荷物の手積み・手降ろし作業の増加などにより、荷役費や作業費も上昇傾向にあります。卸売業の売上高物流コスト比率は平均5.71%(2022年度)と高く、特に輸送費がコストの約4割を占めており、これらのコスト増は経営を圧迫する大きな要因となっています。
配送便の減少と納品リードタイム長期化のリスク
ドライバーの労働時間制限により、運送会社は不採算ルートからの撤退や減便を余儀なくされるケースが増えています。これにより、特に地方や山間部への配送では、配送便の減少や納品リードタイムの長期化が現実のリスクとなっています。卸売業は、顧客への安定供給を維持するため、代替配送手段の確保や配送計画の見直しを迫られています。
食品・日用品・建材など業種別に異なる課題
2024年問題による影響は、卸売業の業種によって異なります。
- 食品卸売業: クール便など温度管理が必要な商品の単価が高騰し、利益確保が困難になっています。小ロット多頻度輸送の割合が高く、荷役作業の効率化や配送ルートの最適化が特に求められます。
- 日用品卸売業: EC化率の上昇に伴う荷物の小口化が進行し、物流現場の逼迫と積載効率の低下が課題です。
- 建材卸売業: 重量物や大型商品の積み付け作業が多く、作業スタッフの身体的負担が大きいため、自動化設備の導入が有効です。
自社配送と委託配送で確認すべきポイント
卸売業が配送体制を見直す際には、自社配送と委託配送それぞれで異なる課題と対策を考慮する必要があります。
- 自社配送: 配車計画の見直しやドライバーの勤務時間管理の徹底、積載率向上に向けた工夫が重要です。
- 委託配送: 運送会社との契約内容や運賃体系の確認、複数の運送会社との連携によるリスク分散、共同配送の検討が必要です。
まず把握したい物流コストと配送体制の現状
物流コストを削減するためには、まず自社の物流コストが「見える化」されていることが重要です。漠然と「物流コストが高い」と感じていても、具体的にどの部分に無駄が発生しているのかが分からなければ、効果的な対策を講じることはできません。
物流コストを輸送費・保管費・荷役費に分けて集計する
物流コストは、主に「輸送費(運送費)」「保管費」「荷役費」「包装費」「物流管理費(人件費)」の5つの機能別コストに分けられます。卸売業では特に輸送費の割合が最も高く、次いで保管費が大きい傾向にあります。自社の物流コストをこれらの費目に分けて集計し、それぞれの内訳と売上高に占める割合を正確に把握しましょう。
- 輸送費: 運賃、燃料費、車両費、ドライバー人件費など
- 保管費: 倉庫賃借料、維持費、管理費、保険料など
- 荷役費: 入出庫作業費、ピッキング費、仕分け費、積み下ろし費など
- 包装費: 梱包資材費、梱包作業人件費など
- 物流管理費: システム導入・運用費、物流部門の人件費など
配送先別・商品別・便別の採算を確認する
一律の運賃設定では、配送先や商品、配送便によっては採算が合わないケースがあります。配送先ごとの距離や荷量、商品ごとの特性(温度管理の有無、サイズ、重量)、そして共同配送便やチャーター便といった配送便の種類ごとに、発生するコストと得られる収益を詳細に分析し、採算性を確認しましょう。これにより、低採算の配送を特定し、料金交渉や配送条件の見直しに繋げることができます。
小口配送・多頻度配送・緊急配送の割合を確認する
顧客ニーズの多様化や在庫圧縮の動きにより、小口配送や多頻度配送が増加傾向にあります。また、突発的な緊急配送も発生することがあります。これらの配送は効率が悪く、物流コストを押し上げる要因となります。自社の配送全体に占める小口・多頻度・緊急配送の割合を把握し、その費用対効果を検討することが重要です。
積載率・空車回送・再配達の発生状況を確認する
トラックの積載率が低い、または空車での回送が多い場合は、輸送資源の無駄が発生しています。また、再配達はドライバーの労働時間増加や燃料費の無駄につながります。これらの状況をデータとして把握し、どのルートや時間帯で非効率が発生しているのかを特定しましょう。
- 積載率: 最大積載量に対する実際の積載量の割合
- 空車回送: 荷物を積まずに走行する回送
- 再配達: 顧客が不在のため再度の配送が必要になったケース
ドライバーの荷待ち時間と荷役作業時間を確認する
配送先での荷待ち時間や荷役作業時間は、ドライバーの拘束時間を長時間化させる大きな要因です。これらの時間がどの程度発生しているかを正確に把握し、「見える化」することが重要です。トラック予約受付システムの導入や、パレット・カゴ台車活用による荷役作業の効率化など、具体的な改善策を検討するための基礎情報となります。
物流コスト増加を抑えるためのチェックリスト
物流コストの増加は卸売業にとって避けられない課題ですが、適切な対策を講じることでその影響を最小限に抑えることができます。ここでは、コスト増加を抑制するための具体的なチェックリストをご紹介します。
運賃改定や燃料サーチャージを契約条件に反映できているか
運送業界では、2024年問題や燃料費高騰を背景に運賃改定や燃料サーチャージの導入が広がっています。取引している運送会社との契約内容を見直し、これらのコスト増が適切に契約条件に反映されているかを確認しましょう。適正な運賃設定は、運送会社の持続可能性にもつながります。
無償の荷待ち・荷役作業が発生していないか
ドライバーが配送先で無償の荷待ちや荷役作業を強いられている場合、それは隠れたコストとなります。荷主企業は、これらの作業に対して適切な対価を支払うか、作業時間の短縮・効率化を支援する取り組みを行う必要があります。具体的には、トラック予約受付システムの導入やパレット・カゴ台車の活用を検討しましょう。
低採算の配送ルートと取引条件を見直しているか
配送先別・商品別・便別の採算性分析に基づいて、低採算の配送ルートや取引条件を特定し、見直しを検討しましょう。場合によっては、配送頻度の調整、納品リードタイムの変更、あるいは取引価格へのコスト反映などの交渉が必要になります。
配送条件ごとの追加費用を設定できているか
小口配送、多頻度配送、緊急配送、時間指定配送など、通常の配送と異なる特別なサービスには、それに応じた追加費用を設定できているか確認しましょう。これにより、サービスレベルに応じた適正な対価を得るとともに、顧客にも配送コストへの意識付けを促すことができます。
物流コストを販売価格や取引価格に適切に反映しているか
物流コストの上昇は企業の利益を圧迫します。サプライチェーン全体の持続可能性を確保するためには、上昇した物流コストを販売価格や取引価格に適切に転嫁することが重要です。荷主企業、卸売業者、小売業者が協力し、適正な価格転嫁を進めることで、物流サービスの品質維持と安定供給に繋がります。
配送効率を高めるためのチェックリスト
配送効率を高めることは、物流コスト削減と顧客満足度向上の両面で重要な課題です。ここでは、配送効率向上に向けた具体的なチェックリストを挙げます。
発注締切時刻と納品リードタイムを見直しているか
発注締切時刻が遅い、または納品リードタイムが短すぎる場合、緊急配送や非効率な配車計画の原因となることがあります。サプライヤーや顧客と協議し、発注締切時刻の繰り上げや納品リードタイムの延長を検討しましょう。これにより、計画的な配送が可能となり、コスト削減とドライバーの負担軽減につながります。
曜日や時間帯に集中する出荷・納品を平準化できているか
特定の曜日や時間帯に荷物の出荷・納品が集中すると、倉庫作業や配送の非効率が生じます。需要予測や出荷データを分析し、出荷・納品量を平準化する取り組みを進めましょう。顧客への協力要請や、出荷量に応じた人員配置の最適化も有効です。
納品先ごとの受け入れ時間と予約ルールを整備しているか
納品先での荷待ち時間を削減するためには、納品先ごとの受け入れ時間や予約ルールを明確にし、ドライバーに周知徹底することが重要です。トラック予約受付システムを導入することで、車両のバース待機時間を大幅に削減できた事例もあります。
パレット・かご台車などを活用して手作業を減らせているか
荷物の積み降ろしや倉庫内での運搬作業に手作業が多い場合、荷役費やドライバーの負担が増加します。パレットやロールボックス(かご台車)の活用を推進し、荷役作業の機械化・自動化を進めましょう。これにより、作業効率の向上、作業時間の短縮、身体的負担の軽減が期待できます。
共同配送や帰り便の活用を検討しているか
複数の荷主が同じ方面への配送を共同で行う共同配送や、荷物を届けた後の帰り便に別の荷物を積む帰り便の活用は、積載効率を高め、輸送コストを削減する有効な手段です。同業他社や異業種との連携を検討し、共同配送プラットフォームや帰り便マッチングサービスを積極的に活用しましょう。
自社配送・委託配送で進める具体的な対策
卸売業が物流の2024年問題に対応し、持続可能な配送体制を構築するためには、自社配送と委託配送それぞれで具体的な対策を進める必要があります。
自社配送は配車計画と運転者の勤務時間を見直す
自社で配送を行っている場合、配車計画の最適化と運転者の勤務時間管理が最重要課題です。
- 配車計画の最適化: 配送管理システム(TMS)やAI自動配車システムを導入し、複数の配送先を効率的に回るルートを自動で算出しましょう。走行距離、所要時間、積載率、時間指定などの制約条件を考慮し、無駄のない最適なルートを設計することで、燃料費の削減とドライバーの負担軽減を実現します。
- 運転者の勤務時間見直し: デジタコ(デジタルタコグラフ)を活用して運行データを正確に把握し、長時間労働の原因となっている荷待ち時間や荷役作業時間を特定しましょう。シフト制の導入や中継輸送の検討、業務の見直しにより、労働時間の上限規制を遵守できる体制を構築します。
委託配送は運送会社との契約内容と運賃体系を確認する
委託配送の場合、運送会社とのパートナーシップ強化が不可欠です。
- 契約内容の確認: 運賃だけでなく、サービスレベル(配送リードタイム、時間指定可否など)、燃料サーチャージ、荷待ち・荷役作業に関する費用、免責事項など、契約内容を詳細に確認しましょう。不透明な部分があれば明確化し、双方納得のいく条件を再設定します。
- 運賃体系の見直し: 配送距離、荷量、時間帯、地域などに応じて柔軟な運賃体系を交渉しましょう。低採算の配送を特定し、価格転嫁や配送条件の変更を協議することも重要です。
複数の運送会社に依存しすぎない配送体制をつくる
特定の運送会社に過度に依存していると、その会社が撤退した場合やサービスレベルが低下した場合に、自社の物流が滞るリスクがあります。複数の運送会社と取引関係を構築し、リスクを分散できる配送体制を構築しましょう。共同配送プラットフォームの活用も有効です。
繁忙期や欠車時の代替配送手段を準備する
繁忙期やトラックの故障、ドライバーの欠勤などによる欠車が発生した場合に備え、代替配送手段を事前に確保しておきましょう。緊急配送に対応できる運送会社との連携や、スポット便の活用、あるいは共同配送網の利用を検討しておくことで、緊急時にも安定した配送を継続できます。
荷主・小売・物流会社で配送情報を共有する
サプライチェーン全体の効率化には、荷主・小売・物流会社の間での情報共有が不可欠です。受発注データ、出荷予定、在庫情報、配送状況などをリアルタイムで共有できるシステムを導入しましょう。これにより、配送の見える化が進み、荷待ち時間の短縮、再配達の削減、トラブル発生時の迅速な対応が可能となります。
在庫とデータの活用で物流負担を減らす方法
物流負担を軽減し、効率的なサプライチェーンを構築するためには、在庫管理の最適化とデータの積極的な活用が不可欠です。
需要予測を活用して欠品と過剰在庫を減らす
過去の販売実績、季節要因、販促キャンペーン、天候などのデータを分析し、AIを活用した需要予測を行うことで、将来の需要を精度高く予測できます。これにより、必要な在庫量を最適化し、欠品による販売機会損失と過剰在庫による保管コストの増加を同時に抑制できます。
出荷データを分析して配送ルートと便数を見直す
WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)から得られる出荷データ、配送実績データ(走行距離、所要時間、積載率など)を継続的に分析しましょう。これにより、非効率な配送ルートや便数を特定し、共同配送への切り替え、配送頻度の見直し、最適な車両台数の調整など、具体的な改善策を導き出すことができます。
受発注業務をデジタル化して手入力と誤出荷を防ぐ
FAXや電話による受発注業務は、手入力によるミスや確認作業の手間、誤出荷の原因となります。Web-EDIや受発注システムを導入し、受発注業務をデジタル化しましょう。これにより、入力作業の自動化、ヒューマンエラーの削減、リアルタイムでの在庫状況の共有が可能となり、業務効率化とコスト削減に貢献します。
在庫拠点と配送エリアの配置を見直す
需要予測データや配送実績データを基に、現在の在庫拠点と配送エリアの配置が最適であるかを見直しましょう。拠点が分散しすぎている場合は集約を検討し、固定費(賃料、人件費など)の削減を目指します。逆に、配送リードタイムの短縮が求められるエリアには、新たな拠点の設置やサテライト倉庫の活用も視野に入れます。
改善効果をコスト・納品品質・作業時間で継続的に測定する
物流改善の取り組みは一度行えば終わりではありません。導入した施策の効果を、物流コストの削減額、納期遵守率や誤配送率といった納品品質、倉庫作業や配送にかかる作業時間といった具体的なKPI(重要業績評価指標)で継続的に測定しましょう。PDCAサイクルを回し、データに基づいた評価と改善を繰り返すことで、持続的な物流最適化を実現できます。
卸売業が今すぐ進める物流改善の実行手順
物流の2024年問題やコスト高騰は、卸売業にとって待ったなしの課題です。効果的な物流改善を進めるためには、計画的かつ段階的なアプローチが不可欠です。
現状診断で優先的に改善する課題を決める
まず、現状の物流コストと配送体制を詳細に診断し、課題を「見える化」しましょう。
- 物流コストの内訳を機能別(輸送費、保管費、荷役費など)に細かく集計する。
- 配送先、商品、便ごとの採算性を分析し、低採算の領域を特定する。
- 小口・多頻度・緊急配送の割合、積載率、空車回送、再配達、ドライバーの荷待ち時間・荷役作業時間といった非効率な点をデータで把握する。 これらの現状診断を通じて、最もコスト削減効果が見込める、あるいは経営へのインパクトが大きい「優先的に改善すべき課題」を明確にしましょう。
取引先と物流条件の見直しを協議する
物流改善は自社だけで完結するものではありません。サプライヤーや顧客(小売店など)との連携が不可欠です。
- 発注締切時刻や納品リードタイムの調整について協議し、計画的な配送を可能にする。
- 無償の荷待ち・荷役作業の解消や、特定の配送条件に対する追加費用設定について交渉する。
- 共同配送や帰り便の活用など、相互にメリットのある物流条件の変更を提案する。 取引先とのオープンな対話を通じて、サプライチェーン全体の最適化を目指しましょう。
小規模な配送ルートから改善策を試行する
いきなり大規模な変更を行うのではなく、小規模な配送ルートや特定のエリアから改善策を試行しましょう。
- 配車計画の最適化や荷待ち時間の削減、パレット・かご台車の活用など、具体的な施策を導入してみる。
- 例えば、特定の低採算ルートで共同配送を試行する、あるいはトラック予約受付システムを一部の納品先に限定して導入するといった方法が考えられます。 これにより、リスクを抑えながら改善策の有効性を検証し、現場での課題や運用上のノウマを洗い出すことができます。
効果を検証して全社・全拠点へ展開する
試行の結果、効果が確認された改善策については、その効果を定量的に(コスト削減額、作業時間短縮、納品品質向上などで)検証しましょう。
- 成功事例を社内や関係者間で共有し、横展開のモチベーションを高める。
- 試行で得られた知見や改善点を踏まえて、対策をさらに洗練させる。 検証結果に基づき、有効性が確認された施策を全社・全拠点へと段階的に展開していきます。
物流コストと配送品質を定期的に見直す
物流環境は常に変化しています。一度改善を行ったからといって、そのまま放置するのではなく、物流コストと配送品質を定期的に見直すサイクルを確立しましょう。
- KPIを設定し、毎月または四半期ごとに進捗状況をモニタリングする。
- 需要変動、燃料費の動向、人手不足の状況などの外部環境の変化を常に把握し、必要に応じて新たな改善策を検討する。 継続的な見直しと改善活動により、変化に強い持続可能な物流体制を維持することができます。












