FATFとは何かをやさしく解説、40の勧告とマネロン対策の基本

FATFは、マネー・ローンダリング、テロ資金供与、拡散金融を防ぐための国際基準をつくり、各国・地域の取組を確認する多国間の枠組みです。金融機関だけでなく、海外取引を行う企業、不動産・貴金属などを扱う事業者、非営利団体にとっても関係があります。本記事では、FATFの役割、40の勧告、相互審査、日本の対応、事業者が押さえるべき対策を解説します。

FATFとは何か

FATFの正式名称と設立の背景

FATFは、Financial Action Task Forceの略称で、日本語では金融活動作業部会と呼ばれます。1989年のアルシュ・サミット経済宣言を受け、当初は薬物犯罪などによる資金洗浄への国際協力を進める枠組みとして設立されました。

国境を越える送金や取引が増えるなか、犯罪収益を隠す行為は一国だけでは防ぎにくくなっています。そのためFATFは、各国が共通して取り組むべき対策を示し、国際社会全体で金融システムの悪用を防ぐ役割を担っています。

FATFが目指す国際的な資金犯罪対策

FATFの目的は、犯罪者、テロリスト、大量破壊兵器の拡散に関与する者が、金融サービスや法人制度を悪用して資金を動かすことを防ぐ点にあります。

各国の制度や事業者の対応水準に大きな差があると、犯罪者は対策の弱い国や業種を利用します。FATFは国際基準を設け、各国が法制度、監督、捜査、事業者の管理体制を整えるよう促しています。

FATFの参加国・地域と関係機関

2024年9月時点で、FATFには日本を含む38の国・地域と、欧州委員会、湾岸協力理事会の2地域機関が参加しています。FATFは年3回の全体会合を開き、国際基準の改定や各国の取組状況などを議論しています。

また、世界各地にはFATF型地域体と呼ばれる地域組織があります。アジア・太平洋地域では、アジア太平洋マネー・ローンダリング対策グループが活動しています。こうした地域組織も含め、FATF勧告は200を超える国・地域で適用されています。

FATFが扱うマネロン・テロ資金供与・拡散金融

FATFが扱う主な対象は、マネー・ローンダリング、テロ資金供与、拡散金融の3つです。いずれも資金や金融サービスが不正な目的に使われることに関係しますが、資金の出所や使途には違いがあります。

マネロンは犯罪収益の出所を隠す行為です。テロ資金供与は、資金が合法的に得られたものであっても、テロ行為やテロ組織の活動に使われる場合を含みます。拡散金融は、大量破壊兵器の開発や取引などに関与する者への資金・金融サービスの提供を指します。

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FATFが対策する資金犯罪の基礎

マネーロンダリングの仕組みと主な手口

マネー・ローンダリングとは、犯罪で得た収益について、出所や本当の所有者を分からなくし、捜査機関による発見や没収を逃れようとする行為です。財務省は、他人名義の口座への振込、偽名での売却などを例として示しています。

一般に、犯罪収益を金融システムに入れる段階、複数の取引を重ねて資金の流れを分かりにくくする段階、正当な事業収益や投資利益のように見せる段階を経ることがあります。ただし、実際の手口は多様であり、現金、法人、海外送金、不動産、暗号資産などが悪用される可能性があります。

国連薬物犯罪事務所は、世界のマネロン総額を世界全体のGDPの約2%から5%と推計しています。資金の流れを不透明にする行為は、次の犯罪やテロの資金源にもなり得るため、社会全体での対策が必要です。

テロ資金供与とは何か

テロ資金供与とは、テロ行為の実行や、テロ組織・テロリストの活動を支えるために、資金、物品、場所などを集めたり提供したりする行為です。マネロンと異なり、資金の出所が犯罪収益であるとは限りません。

少額の寄付や日常的な送金であっても、最終的な使途がテロ活動の支援であれば問題となります。そのため、取引金額だけでなく、送金先、取引目的、相手方との関係、取引の不自然さなどを総合的に確認することが重要です。

拡散金融とは何か

拡散金融とは、核兵器、化学兵器、生物兵器などの大量破壊兵器の開発、保有、輸出などに関与する者に対して、資金や金融サービスを提供する行為です。国連安全保障理事会決議や各国の経済制裁とも関係が深い分野です。

日本では、外為法や国際テロリスト等財産凍結法に基づき、資産凍結などの対象者が指定されています。金融機関や輸出入に関わる企業は、制裁対象者との取引や、制裁を回避するための複雑な取引に利用されないよう、取引先や資金の流れを確認する必要があります。

資金犯罪対策が社会や企業に必要な理由

資金犯罪を放置すると、犯罪組織が資金を得やすくなり、詐欺、薬物犯罪、組織犯罪、テロなどの拡大につながるおそれがあります。健全な事業活動や市民活動への信頼も損なわれます。

企業にとっても、知らないうちに不正取引へ関与した場合、取引停止、行政対応、信用低下、海外送金の遅延といった影響を受ける可能性があります。対策は一部の大企業だけの課題ではなく、自社の事業内容や取引先に応じて取り組むべき経営上の課題です。

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FATF勧告と40の勧告の全体像

FATF勧告が国際基準として果たす役割

FATFは、各国が整備すべきマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策を「40の勧告」として定めています。勧告は法律そのものではありませんが、国際的な対策の基準として広く用いられています。

各国はFATF勧告を踏まえて国内法や監督制度を整え、金融機関などの事業者は国内法令や監督当局のガイドラインに沿って対応します。そのため、日本の企業が直接FATF勧告の対象となるわけではなくても、勧告は実務上のルールや取引先からの確認に影響します。

40の勧告で求められる主な対策

40の勧告には、金融機関の顧客管理だけでなく、犯罪の処罰、捜査機関の権限、国際協力、法人の透明性、制裁対象者の資産凍結など、幅広い内容が含まれます。半分以上は刑事司法や法執行に関わる項目です。

事業者に関係が深い項目としては、顧客の本人確認、取引目的の把握、実質的支配者の確認、取引記録の保存、疑わしい取引の届出、制裁対象者との取引防止などがあります。また、銀行だけでなく、不動産業者、貴金属・宝石商、会計士、弁護士などの指定非金融業者・職業専門家への対策も重視されています。

リスクに応じて対策を変えるリスクベース・アプローチ

FATF勧告の中心的な考え方が、リスクベース・アプローチです。これは、すべての顧客・取引に同じ強さの確認を行うのではなく、リスクを特定・評価し、その程度に応じて対策を変える方法です。

例えば、海外送金が多い取引、取引目的が不明確な取引、支配関係が複雑な法人との取引は、より詳しい確認が必要になる場合があります。一方で、低リスクと判断できる取引には、過度な負担を避けるために簡素な措置を取ることも考えられます。

2025年には、FATFがリスクベース・アプローチにおける比例原則と、低リスクの場合の簡素な措置に一層焦点を当てる基準改定を公表しています。重要なのは、必要以上に一律の確認を増やすことではなく、根拠を持ってリスクに見合う対応を行うことです。

本人確認・取引記録・疑わしい取引の届出

資金犯罪対策では、取引を始める時点で顧客の本人確認を行い、取引目的や事業内容を把握することが基本です。法人の場合には、法人自体の情報だけでなく、実際に支配している人物を確認することも重要です。

取引開始後も、取引内容が顧客の事業や収入の状況と合っているかを継続的に確認します。不自然な高額送金、取引目的と関係が見えにくい資金移動、急激な取引量の変化などがあれば、追加確認や社内での検討が必要になります。

犯罪収益移転防止法の対象となる事業者には、疑わしい取引を行政庁へ届け出る制度があります。届出の要否は、取引時確認の結果、取引の態様、犯罪収益移転危険度調査書などを踏まえて判断します。

法人の実質的支配者を確認する重要性

実質的支配者とは、法人の議決権や事業運営に支配的な影響力を持つ個人を指します。法人名義を使っても、最終的に誰が資金や事業を支配しているかが不明であれば、犯罪収益の隠匿や制裁回避に悪用されるおそれがあります。

FATFは、法人や信託の透明性を重要課題としており、勧告24と勧告25を改定しています。日本でも、金融機関から株主構成、支配関係、代表者、実質的支配者に関する資料の提出を求められることがあります。

企業は、株主名簿、組織図、法人間の資本関係、役員情報などを定期的に整理し、変更があれば更新できる体制を整えることが重要です。

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FATFの相互審査とは

相互審査の目的と進め方

相互審査とは、FATFの参加国・地域が互いに対策状況を確認する仕組みです。国際基準をつくるだけでなく、実際に各国が制度を整え、機能させているかを確認することで、対策の実効性を高めます。

審査では、書面による確認に加え、現地での面談や実地調査が行われます。政府機関、監督当局、捜査機関、金融機関などへの聞き取りを通じて、制度と運用の両面が評価されます。

法令や制度の整備状況を確認する審査

相互審査では、40の勧告に基づき、各国の法律、規則、監督制度などが国際基準に合っているかを確認します。これを技術的コンプライアンスの評価といいます。

評価は、適合している順にC、LC、PC、NCの4段階です。単に法律があるかだけでなく、必要な対象者や手続が制度上カバーされているかも確認されます。

対策が実際に機能しているかを確認する審査

第4次相互審査では、制度が実際に有効に機能しているかを見る有効性評価が重視されるようになりました。有効性は11項目で評価され、高い順にH、S、M、Lの4段階で示されます。

例えば、金融機関などが自らのリスクを理解しているか、顧客管理や取引確認を適切に行っているか、監督当局が実効的に監督しているか、捜査・訴追や資産没収が機能しているかなどが確認されます。

審査結果が国や事業者に与える影響

審査結果は国の制度や監督の改善につながります。指摘を受けた国では、法改正、監督強化、事業者向けガイドラインの整備、関係機関の連携強化などが進められます。

事業者にとっては、相互審査の結果が直接の処分になるわけではありません。しかし、審査後に国内の監督や検査が強化され、金融機関などに求められる顧客確認、取引監視、社内管理体制が見直されることがあります。

評価が低い場合に生じる海外取引上のリスク

国の評価が低い、または対策が不十分な国・地域として国際的に認識されると、海外の金融機関から高いリスクがあると判断される可能性があります。その結果、海外送金に追加情報を求められたり、取引に時間がかかったり、取引関係の見直しを受けたりするおそれがあります。

FATFは、重大な戦略上の不備がある国・地域について、行動要請対象の高リスク国・地域や、強化モニタリング対象国・地域を公表しています。海外取引がある企業は、取引相手国・地域のリスク情報にも注意が必要です。

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日本のFATF対応と第4次対日相互審査

日本が受けた第4次相互審査の概要

日本は2019年に第4次相互審査を受け、2021年8月30日に報告書が公表されました。審査では、2019年10月から11月にかけて、FATFの審査団による訪日調査も行われています。

結果として、日本は重点フォローアップの対象となりました。法令などの整備状況では11項目、有効性評価では8項目が合格水準に達しないと評価されました。第3次審査と比べて制度面の改善は認められた一方、実際の運用面には課題が残るとされました。

日本で指摘された主な課題

第4次対日相互審査では、金融機関などにおける予防措置、監督の実効性、法人などの悪用防止、マネロン・テロ資金供与に関する捜査・訴追などが重点課題として指摘されました。

とくに、金融機関、暗号資産交換業者、指定非金融業者・職業専門家が、リスクに応じた顧客管理、取引監視、資産凍結、実質的支配者情報の収集・維持を十分に実施する必要があるとされました。

金融機関などに求められる対応の強化

金融庁は、金融機関に対して、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドラインで求める対応について、2024年3月末までに体制整備を完了するよう要請しました。2024年4月以降は、整備した体制が実際に機能しているか、その実効性の確保と高度化が重視されています。

金融機関では、顧客情報の継続的な更新、リスクに応じた顧客管理、取引モニタリング、制裁対象者との取引を防ぐ確認、疑わしい取引の届出体制などが求められます。利用者が取引目的、資産・収入、送金先との関係などについて説明や資料提出を求められることがあるのは、こうした対策の一環です。

非金融事業者や非営利団体に関係する対策

FATFの対策は金融機関に限られません。不動産業者、貴金属・宝石商、会計士、弁護士などの指定非金融業者・職業専門家についても、リスクの理解と対策の実施が重視されています。

また、非営利団体についても、正当な活動を妨げないよう配慮しつつ、テロ資金供与に悪用されるリスクに応じた対策が求められます。海外で活動する団体や、海外送金、現金輸送、現地パートナーとの連携を行う団体は、相手先の確認、資金使途の管理、記録の保存などを検討することが重要です。

今後の相互審査に向けた日本の課題

日本政府は、第4次審査後にマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議を設置し、2024年度から2026年度までの行動計画を策定しています。今後は、制度整備だけでなく、取組が継続的に機能していることを示す必要があります。

第5次相互審査では、リスクの高い分野に焦点を当て、実効性をより重視する方向が示されています。拡散金融、暗号資産、実質的支配者、不動産、指定非金融業者・職業専門家への対応は、特に重要な論点となる見込みです。

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企業や事業者に求められるマネロン対策

自社にある資金犯罪リスクを把握する

企業や事業者は、まず自社がどのような資金犯罪リスクを抱え得るかを整理する必要があります。確認する観点には、顧客・取引先の属性、取扱商品やサービス、取引方法、現金の取扱い、海外取引の有無、取引先の国・地域などがあります。

例えば、取引先の支配関係が複雑である、事業内容に比べて高額な資金移動がある、海外との取引が多い、現金取引が多い場合には、追加の確認が必要になることがあります。リスクの特定と評価は、一度行えば終わりではなく、新規事業、海外進出、取引形態の変更などに応じて見直すことが重要です。

顧客や取引先を確認する

取引開始時には、相手方の名称、所在地、代表者、事業内容、取引目的などを確認します。法人の場合は、登記情報だけでなく、最終的に事業を支配している実質的支配者を把握することが求められる場合があります。

確認した情報は、営業部門、経理部門、法務・コンプライアンス部門などで共有し、外部への説明内容に食い違いが生じないように管理します。金融機関から確認を求められた際に迅速に対応できるよう、登記事項証明書、定款、株主名簿、決算書、主要な契約書などを整理しておくことも有効です。

高リスクの取引を継続的に確認する

取引先の確認は、契約時や口座開設時だけでは十分ではありません。取引先の代表者や株主構成、所在地、事業内容、取引目的は変わることがあります。取引開始後も、定期的に情報を更新し、取引内容が当初の説明と整合しているかを確認する必要があります。

特に、高リスクと判断した取引先や取引については、確認頻度を高め、資金の原資や使途、取引の背景、関係者とのつながりを追加で確認することが考えられます。不自然な点があった場合に、担当者だけで判断せず、上位者や専門部署へ相談する仕組みも必要です。

疑わしい取引を見逃さない管理体制を整える

疑わしい取引を見逃さないためには、現場任せにしない管理体制が重要です。取引の不自然さに気づいた担当者が相談・報告できる窓口を設け、確認手順、記録方法、対応の判断基準を明確にします。

確認すべき例としては、事業規模や取引目的に見合わない高額取引、短期間に繰り返される資金移動、通常と異なる国・地域との取引、説明や提出資料に不自然な点がある取引などが挙げられます。ただし、形式的な条件だけで決めつけず、顧客・取引先の実態や取引全体を踏まえて判断することが必要です。

対象となる事業者は、疑わしい取引の届出制度に対応できる体制を整えます。対象外の企業でも、取引停止、追加確認、金融機関や専門家への相談などの対応方針を定めておくことが望まれます。

FATF勧告と国内の法令・当局資料を定期的に確認する

FATF勧告は、新たな犯罪手口や国際情勢の変化に応じて見直されます。企業や事業者は、FATFの動向だけでなく、財務省、金融庁、警察庁、所管官庁が公表する法令、ガイドライン、行動計画、注意喚起を定期的に確認することが重要です。

とくに、海外送金、輸出入、暗号資産、不動産取引、現金取引、寄付や海外事業に関わる場合は、制裁対象者情報や高リスク国・地域に関する情報の更新に注意が必要です。自社のリスクを把握し、取引先情報と資金の流れを継続的に見直すことが、円滑な取引と社会的な信頼の維持につながります。

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この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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