銀行のリスク管理とは?信用・市場・流動性リスクを基礎から解説

銀行のリスク管理とは、融資や資金運用、預金の受け入れ、決済サービスなどに伴う損失や業務停止の可能性を把握し、許容できる範囲に抑えるための仕組みです。銀行は多くの預金者や企業の資金を扱うため、収益を追求しながらも、経営の健全性と利用者への安定したサービス提供を守らなければなりません。

銀行が特に重視するのは、融資先の返済不能による信用リスク、金利や為替などの変動による市場リスク、必要な資金を確保できなくなる流動性リスクです。加えて、事務ミス、不正、システム障害、サイバー攻撃、災害などのリスクも総合的に管理する必要があります。

銀行にリスク管理が必要な理由

銀行が預金と融資を通じて担う役割

銀行は、個人や企業から預かった預金を、住宅購入や事業拡大などのために必要とする人や企業へ融資します。また、振込や口座振替、給与振込など、経済活動を支える決済機能も担っています。

このように銀行は、資金を必要とする人と資金を運用したい人をつなぐ役割を持ちます。一方で、預金は求めに応じて払い戻す必要があるのに対し、融資は長期にわたって返済を受けることが多いため、資金の出入りの時期には差が生じます。この差を適切に管理することが、銀行経営の基本です。

リスク管理が不十分な場合に起こる影響

リスク管理が不十分な場合、融資先の倒産による貸倒損失、有価証券価格の下落による損失、預金流出による資金不足などが発生するおそれがあります。損失が大きくなれば、銀行自身の財務基盤が弱くなり、融資や決済といったサービスの継続にも影響します。

また、システム障害や情報漏えいが発生すれば、利用者が取引できなくなるだけでなく、銀行に対する信頼を大きく損なう可能性があります。銀行への信頼は預金や決済の基盤であるため、財務面の損失だけでなく、信用の低下も重要なリスクです。

収益の確保と健全性の維持を両立する考え方

銀行にとってリスクは、完全になくせるものではありません。融資を行わなければ信用リスクは小さくなりますが、企業や地域への資金供給という役割を果たせず、収益も得にくくなります。有価証券をまったく保有しなければ市場リスクは抑えられますが、資金運用の選択肢は狭まります。

重要なのは、リスクをゼロにすることではなく、経営体力や事業戦略に見合う範囲でリスクを取ることです。銀行は、どのようなリスクをどこまで受け入れるかをあらかじめ定め、損失が許容範囲を超えそうな場合には、融資方針や資産の保有方針を見直します。

銀行が管理する主なリスクの全体像

銀行が管理するリスクは多岐にわたりますが、主なものは以下のとおりです。

  • 信用リスク:融資先や取引相手が返済や支払いをできなくなるリスク
  • 市場リスク:金利、為替、株価などの変動で保有資産の価値や収益が変動するリスク
  • 流動性リスク:預金の払戻しや資金決済に必要な資金を確保できなくなるリスク
  • 事務リスク:事務ミス、不正、手続き不備などにより損失が生じるリスク
  • システム・サイバーリスク:障害、不正アクセス、情報漏えいなどにより業務や利用者に影響が出るリスク
  • 法令違反・評判リスク:法令違反、不適切な対応、風評などで信頼が低下するリスク

これらは相互に関係します。たとえば、システム障害が長期化すれば顧客の不安が高まり、預金の引き出し増加という流動性リスクにつながる場合があります。

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信用リスクの仕組みと管理方法

信用リスクとは融資先が返済できなくなるリスク

信用リスクとは、融資先や取引相手が約束どおりに返済や支払いをできなくなり、銀行が損失を受ける可能性です。企業向け融資では、業績悪化や資金繰りの悪化、倒産などが主な要因になります。個人向け融資では、失業、収入減少、病気などにより返済が滞る可能性があります。

銀行は融資によって利息収入を得る一方で、返済されない場合には元本を回収できません。そのため、融資を実行する前から返済可能性を確認し、融資後も状況を継続的に把握する必要があります。

融資審査で確認する返済能力と事業の状況

融資審査では、借り手が将来にわたって返済できるかを確認します。企業の場合は、売上や利益、資金繰り、借入状況、事業の将来性、経営体制などを確認します。個人の場合は、収入、雇用状況、既存の借入、生活費などを踏まえて返済負担を検討します。

担保や保証は返済不能時の損失を抑える手段の一つですが、それだけに依存するのではなく、事業や収入から安定して返済できるかを見極めることが基本です。特に企業向け融資では、財務数値だけでなく、経営者の方針や業界環境、販売先や仕入先との関係なども重要な判断材料になります。

融資後の継続的な確認と早期対応

信用リスク管理は、融資実行時の審査で終わるものではありません。融資後も、決算書、資金繰り、返済状況、業界動向などを確認し、借り手の状況変化を早期に把握します。

業績悪化の兆候を早くつかめれば、返済条件の見直し、経営改善に向けた助言、追加の資金支援の検討など、状況に応じた対応を取りやすくなります。問題が深刻化してから対応するよりも、早い段階で対話を行うことが、借り手の再生と銀行の損失抑制の両面で重要です。

融資先や業種への集中を防ぐ管理

特定の企業、企業グループ、地域、業種に融資が偏ると、その分野で問題が起きた際に損失が一気に拡大するおそれがあります。たとえば、特定業種の不況や大口取引先の経営悪化が、銀行全体の収益や財務基盤に大きく影響する可能性があります。

このため銀行は、大口の融資先への与信額を把握するとともに、業種別、地域別、商品別などの偏りを確認します。集中している分野がある場合には、新規融資の方針を調整したり、リスクを抑える条件を設定したりします。

景気悪化や倒産増加が信用リスクに与える影響

景気悪化、原材料価格の上昇、金利上昇、需要減少などは、企業の収益や資金繰りに影響します。多くの企業で同時に業績が悪化すると、銀行の貸倒れが増える可能性があります。

銀行は、通常時の返済状況だけでなく、景気後退や金利上昇などの厳しい状況を想定して、損失がどの程度増えるかを分析します。このような分析を通じて、必要な損失への備えや自己資本の水準を検討します。

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市場リスクの仕組みと管理方法

市場リスクとは金利や為替、株価の変動による損失の可能性

市場リスクとは、金利、為替、株価などの市場価格が変動することで、銀行が保有する有価証券や取引の価値、収益が変動するリスクです。銀行は資金運用の一環として国債や社債などの債券、株式、投資信託などを保有することがあります。

市場の変動は収益機会にもなりますが、予想と反対方向に動けば損失が生じます。市場リスク管理では、どのような価格変動に対して、どの程度の影響を受けるかを数値で把握することが重要です。

金利上昇が債券の価格や銀行収益に与える影響

一般に、金利が上昇すると、すでに発行されている低い利率の債券は相対的に魅力が低下し、価格が下がる傾向があります。銀行が保有する債券の価格が下落すれば、売却時の損失や評価損につながる可能性があります。

一方、金利上昇は、融資金利や預金金利にも影響します。資産である融資や債券から得る利息と、負債である預金などに支払う利息の変化には時間差があるため、銀行の収益が変動します。銀行は資産と負債の金利変動への反応の違いを把握し、収益への影響を管理します。

為替変動や株価変動によるリスク

外貨建ての資産や負債を保有している場合、為替相場の変動により円換算の価値が変わります。海外向けの融資や外貨建て債券、外国為替取引などを行う銀行にとって、為替変動は重要なリスク要因です。

また、保有する株式や株式関連商品の価格が下落すれば、損失が生じる可能性があります。市場環境が急変した場合には、金利、為替、株価が同時に変動することもあるため、個別のリスクだけでなく、複数の変動が重なった場合の影響も確認します。

損失の想定額を測定して管理する方法

市場リスクを把握する方法の一つに、一定の確率と期間を前提として、どの程度の損失が起こり得るかを推計する手法があります。代表的な指標には、VaRと呼ばれる想定損失額があります。

ただし、過去の市場変動だけを基にした推計では、想定を超える大きな変動を十分に捉えられない場合があります。そのため銀行は、急激な金利上昇、為替の大幅変動、株価急落などの厳しい状況を仮定するストレステストも行います。こうした分析結果は、資産の保有方針やリスク限度の見直しに活用されます。

保有資産の見直しと損失拡大を防ぐ対応

市場環境や保有資産のリスクが変化した場合、銀行はポートフォリオを見直します。ポートフォリオとは、保有する融資、有価証券、預け金などの資産全体の組み合わせです。

特定の金利水準や通貨、資産種類に偏りすぎないように分散し、必要に応じて保有額や期間を調整します。また、損失が一定水準を超える前に対応できるよう、取引部門とは独立したリスク管理部門が日々の取引や保有残高を確認する体制を整えます。

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流動性リスクの仕組みと管理方法

流動性リスクとは必要な資金を確保できなくなるリスク

流動性リスクとは、預金の払戻し、送金、融資実行、取引の決済などに必要な資金を、必要な時点で確保できなくなるリスクです。銀行は多額の資金を扱いますが、すべてを現金で保有しているわけではありません。

資金を有価証券や融資として運用しているため、急に多額の資金が必要になった場合には、手元資金や換金しやすい資産、外部からの資金調達などで対応します。この対応が難しくなると、健全な資産を保有していても資金繰りが悪化する可能性があります。

預金の引き出し増加と資金繰りへの影響

銀行への不安や風評、金融市場の混乱などをきっかけに預金の引き出しが急増すると、銀行は短期間に多額の資金を用意しなければなりません。資金確保のために資産を急いで売却すれば、本来より低い価格で売らざるを得ず、損失が拡大する場合があります。

特に、インターネットバンキングやスマートフォンアプリの普及により、資金移動は短時間で広がり得ます。銀行は預金残高の動きや市場の状況を日々確認し、資金流出の兆候を早期に把握することが重要です。

資金の調達先を分散する重要性

資金調達を特定の預金者、金融機関、市場に依存すると、その調達先が使えなくなった際に資金繰りが急速に悪化します。そのため、個人預金、法人預金、金融機関からの借入れ、債券発行など、資金調達の手段を適切に分散します。

ただし、調達先を増やすだけでは十分ではありません。資金調達先ごとに、どのような状況で資金が流出する可能性があるか、どの程度の期間で調達可能か、担保が必要かなどを把握する必要があります。

十分な現金や換金しやすい資産を保有する方法

流動性リスクへの備えとして、銀行は現金や日本銀行への預け金に加え、市場で売却しやすい国債などの資産を保有します。こうした資産は、必要なときに比較的速やかに現金化しやすいため、緊急時の資金確保に役立ちます。

保有する流動資産の水準は、預金の構成、資金調達の安定性、想定される資金流出額などを踏まえて決めます。国際的な規制では、一定の厳しい資金流出を想定しても対応できる流動資産を確保する考え方が示されています。

緊急時の資金調達計画と危機対応

流動性リスク管理では、資金繰りが悪化した場合の対応手順をあらかじめ定めます。これを緊急時の資金調達計画と呼びます。計画には、資金不足の兆候を判断する基準、意思決定を行う責任者、調達手段、関係先への連絡方法などを盛り込みます。

実効性を高めるためには、平時から訓練や見直しを行うことが必要です。市場環境や資金調達構造が変化すれば、過去に有効だった対応策が十分に機能しない可能性があるためです。

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事務・システム・サイバーリスクへの対応

事務ミスや不正による損失を防ぐ仕組み

事務リスクとは、役職員のミス、不正、手続きの不備などにより、銀行や利用者に損失が生じるリスクです。送金先の誤り、帳票の不備、権限のない取引、不正な持ち出しなどが該当します。

対策としては、担当者と承認者を分ける相互確認、権限に応じたアクセス制限、取引記録の保存、定期的な点検などが挙げられます。金融庁の監督指針でも、すべての業務に事務リスクがあることを前提に、規程やけん制体制を整備する重要性が示されています。

システム障害が利用者と銀行業務に及ぼす影響

銀行のサービスは、勘定系システム、ATM、インターネットバンキング、決済ネットワークなど、多くのシステムによって支えられています。システム障害が起きると、預金の引き出し、振込、口座残高の確認、給与振込などができなくなる可能性があります。

金融庁が公表した分析では、2022年度に金融機関から約1,900件のシステム障害報告がありました。障害の規模や影響はさまざまですが、共同システムや外部委託先の障害が複数の金融機関や利用者に影響する場合もあります。

サイバー攻撃や情報漏えいへの対策

銀行は口座情報、取引情報、本人確認情報などの重要なデータを扱うため、サイバー攻撃への対策が欠かせません。不正アクセス、フィッシング詐欺、ランサムウェア、DDoS攻撃などにより、情報漏えいやサービス停止が起こる可能性があります。

対策では、多要素認証、アクセス権限の管理、通信やデータの暗号化、ログの監視、脆弱性への対応、従業員教育などを組み合わせます。インターネットバンキングでは、利用者の不正ログインや異常な取引を検知し、速やかに連絡や取引停止を行える体制も重要です。

外部委託先を含めた安全管理

銀行業務では、システム開発・運用、クラウドサービス、事務処理、コールセンターなどを外部に委託することがあります。外部委託は専門性や効率性を得られる一方で、委託先の障害や情報管理の不備が銀行のサービスに影響するリスクがあります。

そのため、委託先の選定時だけでなく、契約後も継続的に管理状況を確認する必要があります。契約では、役割分担、再委託の条件、監査の権限、障害時の連絡、復旧目標、データの取扱いなどを明確にします。委託先のさらに先の再委託先も含め、重要業務やデータがどこに依存しているかを把握することが重要です。

災害や感染症など非常時に備える業務継続計画

地震、風水害、感染症、大規模停電、サイバー攻撃などが発生しても、銀行は決済や現金供給などの重要な機能をできるだけ継続する必要があります。そのため、業務継続計画を策定し、重要業務、必要な人員、システム、拠点、通信手段を整理します。

近年は、あらかじめ想定した災害シナリオに対応するだけでなく、想定外の事態でも重要なサービスを一定水準で提供し続ける力が重視されています。金融庁は、システム障害、自然災害、感染症、サイバー攻撃などが起きても重要業務を最低限維持する能力を、オペレーショナル・レジリエンスとして示しています。

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統合的リスク管理を支える体制と今後の課題

経営戦略とリスク管理を結び付ける考え方

統合的リスク管理とは、信用リスク、市場リスク、流動性リスク、事務・システムリスクなどを個別に管理するだけでなく、銀行全体として把握し、経営判断に生かす取組みです。

たとえば、新たな融資分野への進出、海外事業の拡大、デジタルサービスの導入は、収益機会を生む一方で、新しいリスクも伴います。経営戦略とリスク管理が別々に行われると、成長方針に対して必要な資本、人材、システム、危機対応が不足する可能性があります。

取ることができるリスクの範囲を定める仕組み

銀行は、経営目標を達成するために、どの種類のリスクをどの程度まで受け入れるかを定めます。この考え方は、リスクアペタイトと呼ばれます。リスクアペタイトは、危険な行動を促すものではなく、収益機会と健全性のバランスを組織として明確にするための基準です。

具体的には、自己資本、流動性、損失額、特定業種への集中度、システム停止の許容時間などについて、目安や限度を設けます。限度に近づいた場合や超えた場合には、経営層への報告、取引方針の修正、追加対策の実施などを行います。

リスクごとの情報を集約して経営判断に生かす方法

複数のリスクを管理するには、正確で迅速なデータ集計と報告が必要です。たとえば、融資先の信用状況、有価証券の評価額、資金繰り、システム障害、サイバー攻撃の兆候などを部門横断で把握しなければなりません。

情報が部門ごとに分かれ、形式や更新頻度が異なると、経営層は全体像を把握しにくくなります。そのため、重要な指標を定め、リスクの変化を見える化し、必要な情報を適時に経営会議や取締役会へ報告する体制が求められます。

経営層・現場・監査部門が担う役割

リスク管理は、リスク管理部門だけの仕事ではありません。経営層は、経営方針とリスク許容範囲を定め、重要なリスクについて意思決定を行います。営業や市場部門、システム部門などの現場は、日々の業務でリスクを把握し、定められた方針や手続きに従って対応します。

リスク管理部門は、現場から独立した立場でリスクを測定・監視し、必要に応じてけん制を行います。内部監査部門は、リスク管理の仕組みが実際に機能しているかを検証します。このように役割を分け、相互に確認することで、過度なリスクテイクや問題の見落としを防ぎます。

金利環境の変化とデジタル化に対応するリスク管理

金利環境の変化は、融資や預金の収益、有価証券の価値、資金調達コストに広く影響します。金利が上昇する局面では、債券価格の下落や預金金利の上昇などを踏まえ、資産と負債のバランスをより丁寧に管理する必要があります。

また、デジタル化の進展により、銀行はクラウドサービス、外部事業者、API連携などへの依存を高めています。利便性や業務効率の向上が期待できる一方で、外部委託先への集中、サイバー攻撃、システム障害、データ管理の複雑化といった課題も増えています。

今後の銀行のリスク管理では、財務上のリスクだけでなく、業務を止めないための体制、外部委託先を含めた安全管理、利用者への迅速な情報提供を一体的に強化していくことが重要です。

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この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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