情シスは、社内PCやスマートフォンの管理、アカウント管理、ネットワーク運用、クラウドサービスの設定、セキュリティ対策、問い合わせ対応など、幅広い業務を担います。必要な知識も多岐にわたるため、未経験で配属された方や経験の浅い方は、何から学ぶべきか迷うこともあるでしょう。
資格は情シスとして働くための必須条件ではありません。しかし、ITの基礎や担当業務に関わる知識を体系的に身につける方法として有効です。本記事では、情シス初心者におすすめの資格を、業務領域別に10種類紹介します。
情シス初心者が資格を取る前に押さえたい基礎知識
情シスに資格が必須ではない理由
情シスは、医師や弁護士のように特定の資格がなければ就けない職種ではありません。実務経験があり、担当するIT環境を適切に運用できるのであれば、資格を持っていなくても業務を担うことは可能です。
一方で、情シスの業務範囲は広くなりがちです。PCやスマートフォンの設定、メールやチャットツールの管理、ネットワーク障害の切り分け、クラウドサービスの利用管理、情報セキュリティ対策など、複数の分野に対応する必要があります。日々の業務だけでは、知識が断片的になりやすい点には注意が必要です。
資格学習は、実務で経験した作業の背景や仕組みを理解する機会になります。資格を取ること自体ではなく、業務をより安全かつ効率的に進めるための学習手段として活用することが重要です。
資格取得で得られる知識・社内評価・キャリアのメリット
資格学習の大きなメリットは、IT知識を体系的に整理できることです。たとえば「社内システムに接続できない」という問い合わせでは、端末、Wi-Fi、有線LAN、IPアドレス、DNS、認証、サーバー、クラウドサービスなど、複数の要因を確認しなければなりません。IT全体の基礎があると、原因を切り分ける順序を考えやすくなります。
また、資格は一定の知識を持つことの客観的な証明になります。情シスの仕事は、トラブルが起きないように予防する業務も多く、成果が見えにくい場合があります。資格を取得しておくと、上司や他部署、外部ベンダーに対して、自身の知識領域を説明しやすくなります。
企業によっては、資格手当、受験費用の補助、合格報奨金などの制度を設けている場合もあります。転職や異動を検討する際にも、保有資格は経験や得意分野を伝える材料になります。ただし、資格だけで実務力が身につくわけではないため、実務経験と組み合わせることが前提です。
初心者は担当業務と苦手分野から選ぶ
資格選びでは、知名度だけで判断しないことが大切です。まずは、自分が担当している業務と、対応時に不安を感じる分野を書き出してみましょう。
- IT用語やシステム全体の仕組みに不安がある場合は、ITパスポート試験や基本情報技術者試験
- アカウント管理、アクセス権、情報漏えい対策を担当する場合は、情報セキュリティマネジメント試験やCompTIA Security+
- PCの不具合対応、キッティング、端末管理が多い場合は、CompTIA A+やMicrosoft 365 Fundamentals
- ネットワーク接続、VPN、Wi-Fi、拠点間通信に関わる場合は、CompTIA Network+やCCNA
- AWSなどのクラウドサービスを利用している場合は、AWS Certified Cloud Practitioner
- 問い合わせ対応や障害対応を標準化したい場合は、ITIL 4 Foundation
すべての資格を取得する必要はありません。現在の業務に最も近いものを1つ選び、学んだ内容を日々の対応に生かすことから始めましょう。
まず取得を検討したいITの基礎資格
ITパスポート試験
ITパスポート試験は、独立行政法人情報処理推進機構が実施する国家試験です。ITを活用する社会人向けの基礎的な試験であり、IT未経験から情シスに配属された方に適しています。
出題範囲には、コンピューターやネットワーク、情報セキュリティだけでなく、経営、業務改善、システム開発、法律、個人情報保護なども含まれます。技術だけに偏らず、企業活動の中でITがどのように使われるかを幅広く学べる点が特徴です。
情シスでは、技術的な対応だけでなく、利用部門の業務を理解したうえでシステムやツールを提案する場面があります。ITパスポート試験は、ITと業務の関係をつかむ最初の一歩として役立ちます。基本情報技術者試験にいきなり挑戦することが不安な方にも向いています。
情報セキュリティマネジメント試験
情報セキュリティマネジメント試験は、情報セキュリティを組織的に管理するための知識を問う国家試験です。技術的な対策だけでなく、情報資産の管理、リスクの考え方、アクセス権の管理、委託先の管理、インシデント対応、関連法規などを学びます。
情シスは、社員のアカウント発行や削除、端末の管理、クラウドサービスの利用設定、セキュリティ教育などに関わることが少なくありません。そのため、セキュリティを専門担当者だけの業務と考えるのではなく、日常の運用に組み込む視点が必要です。
同試験は、プログラミングの知識を中心に問う試験ではありません。セキュリティルールの運用や、社員への注意喚起、情報漏えいの予防に関わる担当者にとって、取り組みやすい選択肢です。
基本情報技術者試験
基本情報技術者試験は、ITエンジニアの基礎力を確認する国家試験です。コンピューターの仕組み、ネットワーク、データベース、情報セキュリティ、システム開発、アルゴリズム、プログラミングなど、ITに関する幅広い知識が対象です。
現在はCBT方式で随時実施されており、試験は科目Aと科目Bで構成されています。科目Aは90分で60問、科目Bは100分で20問です。科目Bでは、プログラムの処理手順や問題解決の考え方が問われます。
情シスは開発を専門にしない場合でも、ベンダーとの打ち合わせやシステム導入、障害時の切り分けなどで、システムの基本構造を理解する必要があります。IT全般の土台を固め、より専門的な資格に進むための基礎として有効です。
社内ITの運用・利用者対応に役立つ資格
ITIL 4 Foundation
ITIL 4 Foundationは、ITサービスを安定して提供し、継続的に改善するための考え方を学ぶ資格です。ITILは、障害対応、問い合わせ管理、変更作業、問題の再発防止などを、個人の経験だけに頼らず運用するためのベストプラクティスとして知られています。
情シスでは、「同じ問い合わせに何度も対応している」「障害が起きるたびに対応方法が異なる」「設定変更の影響範囲が把握できていない」といった課題が起こりがちです。ITILの考え方を学ぶと、問い合わせの記録、対応手順の標準化、変更前の確認、原因分析、ナレッジの蓄積といった運用改善につなげやすくなります。
特に、少人数で多くの業務を担う情シスや、属人化を減らしたい担当者に向いています。技術そのものより、IT運用を仕組みとして整える視点を身につけたい場合に検討するとよいでしょう。
CompTIA A+
CompTIA A+は、PCやモバイル端末、OS、ネットワーク、基本的なセキュリティ、トラブルシューティングに関する知識を扱う資格です。特定のメーカー製品に限定されず、ITサポートに必要な基礎を幅広く学べます。
情シスの問い合わせ対応では、「PCが起動しない」「画面が表示されない」「プリンターに接続できない」「ソフトウェアが動かない」「ネットワークにつながらない」といった問題が発生します。こうした状況で重要なのは、慌てて設定を変更することではなく、現象を確認し、原因候補を絞り込むことです。
CompTIA A+の学習では、ハードウェア、OS、周辺機器、ネットワーク接続、セキュリティの基礎を横断的に学びます。PCキッティング、端末管理、社内ヘルプデスクを担当する方に適した資格です。
Microsoft 365 Fundamentals
Microsoft 365 Fundamentalsは、Microsoft 365のクラウドサービス、セキュリティ、コンプライアンス、料金体系の基本的な考え方を学ぶための資格です。Microsoft 365を社内で利用している企業の情シス担当者に向いています。
Microsoft 365には、メール、オンライン会議、ファイル共有、文書作成、ID管理、端末管理など、日常業務に関わる多くの機能があります。利用者からの問い合わせに対応する際にも、サービスごとの役割や、クラウド上でのデータ管理の基本を理解していることが重要です。
この資格は、特定の管理作業を深く扱うというより、Microsoft 365全体の概要を理解するための入門資格です。Microsoft 365の導入・運用に関わり始めた方や、クラウドサービスの基本を整理したい方に適しています。
ネットワーク・クラウド管理に役立つ資格
CompTIA Network+
CompTIA Network+は、特定メーカーに依存しないネットワークの基礎知識を学べる資格です。ネットワークの仕組み、IPアドレス、無線LAN、DNS、DHCP、ネットワークの監視、障害対応、セキュリティなどが対象になります。
情シスには、「Wi-Fiにつながらない」「VPN接続ができない」「共有フォルダが開けない」「社内システムが遅い」といった相談が寄せられます。原因はPC、ネットワーク機器、認証、サーバー、クラウドサービスなどさまざまです。ネットワークの基本を理解していれば、どの部分から確認すべきかを判断しやすくなります。
自社のネットワーク機器を直接設定しない場合でも、外部ベンダーに問い合わせる際の状況説明や、障害の初動対応に役立ちます。ネットワークの仕組みをベンダー中立の立場で学びたい場合におすすめです。
CCNA
CCNAは、Ciscoが提供するネットワーク分野の認定資格です。現行の200-301 CCNAでは、ネットワークの基礎、ネットワークアクセス、IP接続、IPサービス、セキュリティの基礎、自動化とプログラマビリティなどが対象です。
ルーターやスイッチの役割、通信経路、VLAN、無線LAN、アクセス制御といった内容を学ぶため、ネットワークの構築や運用に関わる情シスに適しています。社内ネットワーク、拠点間接続、VPN、Wi-Fiなどの管理を担当している場合には、特に実務とのつながりを感じやすい資格です。
ただし、ネットワーク機器の運用を外部に委託しており、自身が設定作業を行う機会が少ない場合は、最初に選ぶ資格として優先度が高いとは限りません。自社でCisco製品を使っているか、ネットワークの担当範囲がどこまでかを確認して判断しましょう。
AWS Certified Cloud Practitioner
AWS Certified Cloud Practitionerは、AWSのクラウドサービスに関する基礎知識を証明する資格です。クラウドの基本概念、AWSの主要サービス、セキュリティ、料金とコスト管理、サポート体制などを幅広く学びます。
情シスでは、クラウド上で利用する業務システムやデータ保管サービスが増えています。インフラの構築を外部ベンダーに任せている場合でも、クラウドの責任範囲、利用料金、アカウント管理、セキュリティ設定の考え方を理解しておくことは重要です。
AWSを利用している、または今後利用を検討している企業であれば、最初のクラウド資格として有力な選択肢です。一方で、AWSを利用していない場合は、まず自社で採用しているクラウドサービスの学習を優先したほうが実務に結びつきます。
セキュリティ対策の基礎を固める資格
CompTIA Security+
CompTIA Security+は、情報セキュリティに関する実践的な基礎を学べる国際資格です。脅威や脆弱性、アクセス制御、認証、暗号化、ネットワーク防御、リスク管理、インシデント対応など、幅広い領域が対象になります。
情報セキュリティマネジメント試験が組織の管理や運用にも重点を置くのに対し、CompTIA Security+は技術的な対策も含めて理解を深めたい場合に適しています。たとえば、多要素認証、権限の最小化、ログ監視、脆弱性への対応、端末保護などの考え方を整理できます。
セキュリティの担当範囲を広げたい方、ネットワークやクラウドも含めた防御の基本を学びたい方に向いています。資格には更新要件が設けられているため、取得前に公式情報で有効期間や更新方法を確認しましょう。
情シスがセキュリティ資格を学ぶべき理由
情シスは、社員が利用する端末、アカウント、ネットワーク、クラウドサービス、業務システムを管理する立場です。そのため、専門のセキュリティ部門がある企業でも、日常的な運用においてセキュリティを意識する必要があります。
たとえば、新入社員へのアカウント発行、退職者のアカウント停止、共有フォルダの権限付与、PCの持ち出し管理、ソフトウェアの更新、フィッシングメールへの注意喚起などは、いずれも情報漏えいの防止に関わる業務です。
セキュリティ資格の学習を通じて、対策を単なるルールとして実施するのではなく、「どのようなリスクを下げるための対応か」を説明できるようになります。現場や経営層に対して、必要な対策の理由を伝える力にもつながります。
初心者がセキュリティ知識を実務に生かす方法
セキュリティ知識は、学んだだけでは十分に定着しません。日常業務の中で、小さな見直しを行うことが大切です。
- アカウントの発行、変更、削除の手順と承認者を明確にする
- 共有フォルダやクラウドストレージのアクセス権を定期的に確認する
- 端末のOSやソフトウェアが更新されているかを確認する
- 不審なメールを受け取った場合の報告窓口と初動対応を周知する
- 問い合わせや障害の内容を記録し、再発防止策につなげる
- 新しいクラウドサービスを導入する際に、利用者、保管データ、権限、退職時の扱いを確認する
すべてを一度に改善しようとする必要はありません。まずは自分が担当するアカウント管理、端末管理、問い合わせ対応などから、リスクを減らせる部分を1つずつ見つけていきましょう。
情シス初心者向けの資格の選び方
現在の業務課題から優先順位を決める
資格選びでは、将来のキャリアだけでなく、今の業務で困っていることを起点にすることが重要です。実務で使う機会がある知識は記憶に残りやすく、学習の目的も明確になります。
たとえば、社員からのPCやソフトウェアの問い合わせが多い場合はCompTIA A+、障害対応や問い合わせ管理が属人化している場合はITIL 4 Foundation、ネットワーク接続に関する相談が多い場合はCompTIA Network+やCCNAが候補になります。
ITの基礎用語が分からず、ベンダーとの会話に不安がある場合は、ITパスポート試験または基本情報技術者試験から始めるとよいでしょう。資格名ではなく、解決したい業務課題を先に決めることがポイントです。
学習時間・受験費用・難易度を比較する
学習を継続するためには、現在の知識レベル、業務の忙しさ、家庭の状況に合う資格を選ぶ必要があります。難易度が高い資格ほど価値があるとは限らず、途中で学習が止まると実務への効果も得にくくなります。
試験によって、CBT方式で随時受験できるもの、決まった時期に実施されるもの、研修と試験がセットになっているものなど、受験方法が異なります。受験料、教材費、資格の更新費用が必要になる場合もあるため、公式サイトで確認しましょう。
最初の1資格は、短期間で全体像をつかみやすいものを選ぶ方法もあります。合格経験を得ることで、学習習慣をつくり、次の専門資格に進みやすくなります。
自社で利用している製品やクラウドサービスを確認する
ベンダー資格を選ぶ前に、自社のIT環境を確認しましょう。自社で利用していない製品の資格を取っても、学んだ内容をすぐに使えるとは限りません。
確認したい主な項目は、以下のとおりです。
- PCのOSと端末管理の方法
- メール、チャット、オンライン会議、ファイル共有に利用しているサービス
- ID管理や多要素認証の仕組み
- ネットワーク機器のメーカーと管理体制
- 利用しているクラウドサービス
- セキュリティ製品や外部委託の範囲
たとえば、Microsoft 365を中心に運用しているならMicrosoft関連の学習、AWSを利用しているならAWS認定、Cisco製品を利用しているならCCNAの学習が実務に結びつきやすくなります。
資格手当や評価制度の対象を確認する
資格取得を検討する際は、就業規則や社内の資格支援制度を確認しましょう。資格手当の対象、受験費用の補助、合格報奨金、研修費用の補助などが用意されている場合があります。
ただし、手当の有無だけで資格を選ぶと、実務との関連性が薄くなるおそれがあります。担当業務との関係、将来担当したい分野、社内評価制度の3点を踏まえて判断することが大切です。
上司との面談の機会がある場合は、今後任せたい業務や、部門として求めるスキルを確認する方法もあります。個人の学習目標と部署の課題を結びつけることで、業務時間の調整や支援を得られる可能性があります。
資格取得を実務力につなげる学習の進め方
最初の1資格を決めて学習計画を立てる
複数の資格を同時に始めると、学ぶ内容が増えすぎて継続しにくくなります。まずは最初の1資格を決め、試験日や目標時期から逆算して学習計画を立てましょう。
平日に30分、休日に1〜2時間など、無理のない学習時間を決めることが継続のポイントです。情シスは突発的な問い合わせや障害対応が起こりやすいため、計画どおりに進まない週があっても問題ありません。遅れを取り戻そうと過度な負担をかけるより、翌週から再開できる計画にすることが重要です。
学習開始時には、試験範囲を確認し、「理解できている分野」と「初めて学ぶ分野」を分けると効率的です。苦手な分野を早めに把握し、重点的に時間を使いましょう。
書籍・動画教材・問題演習を組み合わせる
資格学習では、書籍だけ、動画だけに偏らず、複数の方法を組み合わせると理解が深まります。書籍では試験範囲の全体像をつかみ、動画では図や画面操作を通じて仕組みを理解し、問題演習で知識を定着させる流れが効果的です。
特にネットワーク、クラウド、セキュリティの分野では、用語を暗記するだけでは実務に生かしにくい場合があります。「この設定は何のためにあるのか」「どのような問題を防ぐのか」を意識して学びましょう。
問題を解いた後は、正解・不正解だけで終わらせず、間違えた理由を確認することが大切です。用語の意味が曖昧だったのか、問題文の条件を見落としたのかを振り返ることで、次回の学習に生かせます。
学んだ内容を問い合わせ対応や手順書作成に生かす
資格学習で得た知識は、すぐに実務で使うことで定着します。たとえば、ネットワークを学んだ後は、接続できない問い合わせの際に、発生日時、利用場所、有線か無線か、ほかの利用者も同様か、特定サービスだけが使えないのかを確認する習慣をつけましょう。
セキュリティを学んだ後は、アカウントの権限申請や退職時の削除手順を見直す、端末の更新状況を確認する、不審メールの報告方法を整理するといった行動につなげられます。
また、問い合わせ対応で得た知見を手順書やFAQに残すことも有効です。対応内容を文章化すると、自分自身の理解が整理されるだけでなく、チーム内の情報共有や業務の属人化防止にも役立ちます。
資格だけでなく実務経験とコミュニケーション力も磨く
資格は知識の証明として役立ちますが、情シスとして信頼されるためには、実務での判断力とコミュニケーション力も欠かせません。問い合わせ対応では、技術的な原因を特定する前に、利用者から状況を正確に聞き取る必要があります。
「いつから発生しているか」「誰に影響しているか」「何をした後に起きたか」「画面にどのような表示が出ているか」などを確認できれば、対応の精度が上がります。専門用語を使わず、利用者が次に何をすればよいかを分かりやすく伝える力も重要です。
また、外部ベンダーに依頼する際は、現象、発生時刻、対象者、試した対応、影響範囲を整理して伝えることで、解決までの時間を短縮しやすくなります。資格で学んだ知識を、聞く力、伝える力、記録する力と組み合わせることで、情シスとしての実務力を高められます。










